会長声明2015.06.25
死刑執行に関する会長声明
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 2015年6月25日、名古屋拘置所に収監中であった死刑囚1名に対して死刑が執行された。昨年10月に上川陽子法務大臣が就任してからは初めてである。執行された死刑囚は、一審判決を不服として控訴した後、控訴を取下げたとされたが,かかる控訴の取下げの効力が争われ,その際の弁護士との接見に立会いがついたことについて国家賠償請求が認められた者である。極めて遺憾な事態であり、死刑執行について強く抗議する。
2 死刑の廃止は国際的な趨勢である。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国(死刑廃止州は19州)の3か国のみであり、その中でも韓国は、1997年末に執行して以来、17年以上執行しておらず、事実上の死刑廃止国と評価されているから、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。
国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、2008年10月、総括所見において、「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告を行い、 2014年7月24日には、死刑の廃止について十分に考慮することや、執行の事前告知、死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等の勧告を行っている。
さらに、2014年12月18日、国連総会において、全ての死刑存置国に対し、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、過去最高数である117カ国の賛成多数で採択されている。
こうした国際的な趨勢において、死刑制度を存置し、かつ死刑の執行を繰り返す日本の姿勢は際立っている。
3 また、死刑制度の大きな問題点の1つに、死刑が一度執行されてしまうと権利回復は最早不可能であり、取り返しの付かない結果となることがある。
1980年代に4名の死刑確定者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように、誤判の可能性は否定できない。また、裁判当時においては判明し得なかった証拠上の問題点が、科学技術の進歩により明らかになるという事情もある。実際、2014年3月27日、静岡地方裁判所は、「袴田事件」につき、犯行時の着衣とされていた衣類に付着した血痕のDNA型が袴田氏のDNA型と「一致しない」との弁護側提出の鑑定書などの証拠を新規性あるものと認め、死刑確定者に対する再審を開始する旨の決定を下している。
4 昨年、内閣府の実施した世論調査では、「死刑もやむを得ない」とする回答者が約80%を占めたが、その中で、状況が変われば将来、死刑を廃止してよいとする者は約40%、将来的にも死刑を存置すべきとする者は、約57%であり、総回答者の中で、将来的にも死刑を存置すべきとする者の割合は約46%である。
日本弁護士連合会は、再三にわたり、法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し、死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。この要請を無視してなされた死刑執行は、当会としても到底容認することができない。
5 以上より、当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、死刑制度の廃止について全社会的議論を直ちに開始することを求めるものである。
以上
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 2015年6月25日、名古屋拘置所に収監中であった死刑囚1名に対して死刑が執行された。昨年10月に上川陽子法務大臣が就任してからは初めてである。執行された死刑囚は、一審判決を不服として控訴した後、控訴を取下げたとされたが,かかる控訴の取下げの効力が争われ,その際の弁護士との接見に立会いがついたことについて国家賠償請求が認められた者である。極めて遺憾な事態であり、死刑執行について強く抗議する。
2 死刑の廃止は国際的な趨勢である。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国(死刑廃止州は19州)の3か国のみであり、その中でも韓国は、1997年末に執行して以来、17年以上執行しておらず、事実上の死刑廃止国と評価されているから、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。
国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、2008年10月、総括所見において、「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告を行い、 2014年7月24日には、死刑の廃止について十分に考慮することや、執行の事前告知、死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等の勧告を行っている。
さらに、2014年12月18日、国連総会において、全ての死刑存置国に対し、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、過去最高数である117カ国の賛成多数で採択されている。
こうした国際的な趨勢において、死刑制度を存置し、かつ死刑の執行を繰り返す日本の姿勢は際立っている。
3 また、死刑制度の大きな問題点の1つに、死刑が一度執行されてしまうと権利回復は最早不可能であり、取り返しの付かない結果となることがある。
1980年代に4名の死刑確定者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように、誤判の可能性は否定できない。また、裁判当時においては判明し得なかった証拠上の問題点が、科学技術の進歩により明らかになるという事情もある。実際、2014年3月27日、静岡地方裁判所は、「袴田事件」につき、犯行時の着衣とされていた衣類に付着した血痕のDNA型が袴田氏のDNA型と「一致しない」との弁護側提出の鑑定書などの証拠を新規性あるものと認め、死刑確定者に対する再審を開始する旨の決定を下している。
4 昨年、内閣府の実施した世論調査では、「死刑もやむを得ない」とする回答者が約80%を占めたが、その中で、状況が変われば将来、死刑を廃止してよいとする者は約40%、将来的にも死刑を存置すべきとする者は、約57%であり、総回答者の中で、将来的にも死刑を存置すべきとする者の割合は約46%である。
日本弁護士連合会は、再三にわたり、法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し、死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。この要請を無視してなされた死刑執行は、当会としても到底容認することができない。
5 以上より、当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、死刑制度の廃止について全社会的議論を直ちに開始することを求めるものである。
以上