会長声明2015.08.31
面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の東京高裁判決についての会長声明
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 声明の趣旨
2015年7月9日に東京高等裁判所第2民事部(柴田寛之裁判長)が言い渡した,拘置所で勾留中の被告人と接見中の弁護人が,証拠保全のためにデジタルカメラで被告人を写真撮影していたところ,拘置所職員が撮影を禁止した上で当該接見を中止させた行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として提起した国家賠償訴訟(いわゆる「竹内国賠」)について,その請求を全て棄却するとした判決に強く抗議する。
2 声明の理由
⑴ 事案の概要
竹内国賠は,弁護人が,東京拘置所において,勾留中の被告人と接見中に,被告人の精神状態が尋常ではないと思われたため,その様子を保全するためにデジタルカメラで写真撮影をしていたところを,拘置所職員が撮影を禁止した上で,当該接見を中止させた行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として,国家賠償を求めた事案である。
⑵ 原審判決
原審の東京地裁民事第39部は,刑事訴訟法39条1項において認められる接見交通権が,憲法34条に由来する権利であることを踏まえて,弁護人の接見を中止することができるのは,具体的事情の下,未決拘禁者の逃亡のおそれ,罪証隠滅のおそれ,その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られると判示した。
そして,本件における弁護人の撮影行為にこれらの蓋然性があるとは認められないため,接見を中止させたことが違法であるとして,国に10万円の支払を命じた。
⑶ 本判決
しかし,2015年7月9日,東京高等裁判所第2民事部(柴田寛之裁判長)は,原審判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの逆転判決を言い渡した。
本判決は,刑事訴訟法39条1項が接見交通権を規定しているのは,弁護人と面会して相談し,その助言を受けるなど弁護人からの充分な援助を受ける機会を確保するため(最高裁平成11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁)と判示しつつ,弁護人が写真撮影や面会時の様子を音声・画像に記録化することは,「接見」の範囲に含まれず,接見交通権によって保障されないと判示した。
その理由として,「『接見』という文言が『面会』と同義に解される」こと,刑事訴訟法が「制定された昭和23年7月10日当時,カメラやビデオ等の撮影機器は普及しておらず,弁護人等が被告人を写真撮影したり,動画撮影したりすることは想定されていなかった」ことなどを挙げている。
その上で,本判決は,原審判決が判示した「罪証隠滅等の蓋然性」を要せず,単に刑事施設が刑事施設自身の判断で定めた規律を侵害する行為があれば,弁護人の接見を中断できると判示した。
⑷ 本判決の問題点
ア 刑事訴訟法39条1項の不合理な解釈
刑事訴訟法39条1項が規定する接見交通権は,憲法34条に由来する被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける権利の中核とも言うべき,刑事手続上最も重要な権利である。
しかしながら,上述したとおり,本判決は,「接見」と「面会」という文言を同義に解した上で,刑事訴訟法制定当時には,弁護人によるカメラやビデオを用いた撮影や録画が行われていなかったことが現在でもそのまま当てはまるような極めて安易な解釈をしている。
しかし,機器の普及により撮影や録画は極めて容易になった現在,捜査機関はこれらの方法を広く活用しており,被疑者の取調べにおいて録音・録画の義務付けが行われようとしている。これに比すると,弁護人にカメラやビデオを用いた撮影や録画を一切認めなくてもよいかのような判断は,時代に逆行し,弁護人の権限を著しく制限する不合理なものであるといえる。
さらに,本判決は,時代の流れとともに,憲法13条に規定される「幸福追求権」のうちにプライバシー権が認められるなど,文言内に当然読み込むことができるものは,その権利性が認められるというこれまでの判例法理とも明らかに異なる判断である。
イ 「罪証隠滅等の蓋然性」を要しないとした点の誤り
本判決は,刑事収容施設法117条及び113条の定める「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」として刑事施設が独自に定めた行為を弁護人が行った場合には,その行為に罪証隠滅等の蓋然性が認められなくても,刑事施設が弁護人の接見をいつでも中止できると判示したものである。このような判示は,近時頻発している,刑事収容施設による弁護人の接見交通権として保障される接見時の写真撮影などの制限を,無条件に許容するものであって,刑事弁護に対する理解を欠くものと評価せざるを得ない。
本判決により,刑事弁護を担う弁護士が,将来の訴訟行為や防禦活動のために行うべき接見室内における被疑者・被告人の言動等の記録化を躊躇し,ひいては十全な弁護活動に支障を来すようなことがあってはならない。
⑸ まとめ
以上より,当会は,本判決の法令解釈の不合理性,刑事弁護に対する理解の欠如に対し,強い抗議の意思を表明するため,本声明を出すものである。
以上
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 声明の趣旨
2015年7月9日に東京高等裁判所第2民事部(柴田寛之裁判長)が言い渡した,拘置所で勾留中の被告人と接見中の弁護人が,証拠保全のためにデジタルカメラで被告人を写真撮影していたところ,拘置所職員が撮影を禁止した上で当該接見を中止させた行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として提起した国家賠償訴訟(いわゆる「竹内国賠」)について,その請求を全て棄却するとした判決に強く抗議する。
2 声明の理由
⑴ 事案の概要
竹内国賠は,弁護人が,東京拘置所において,勾留中の被告人と接見中に,被告人の精神状態が尋常ではないと思われたため,その様子を保全するためにデジタルカメラで写真撮影をしていたところを,拘置所職員が撮影を禁止した上で,当該接見を中止させた行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として,国家賠償を求めた事案である。
⑵ 原審判決
原審の東京地裁民事第39部は,刑事訴訟法39条1項において認められる接見交通権が,憲法34条に由来する権利であることを踏まえて,弁護人の接見を中止することができるのは,具体的事情の下,未決拘禁者の逃亡のおそれ,罪証隠滅のおそれ,その他の刑事施設の設置目的に反するおそれが生ずる相当の蓋然性があると認められる場合に限られると判示した。
そして,本件における弁護人の撮影行為にこれらの蓋然性があるとは認められないため,接見を中止させたことが違法であるとして,国に10万円の支払を命じた。
⑶ 本判決
しかし,2015年7月9日,東京高等裁判所第2民事部(柴田寛之裁判長)は,原審判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの逆転判決を言い渡した。
本判決は,刑事訴訟法39条1項が接見交通権を規定しているのは,弁護人と面会して相談し,その助言を受けるなど弁護人からの充分な援助を受ける機会を確保するため(最高裁平成11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁)と判示しつつ,弁護人が写真撮影や面会時の様子を音声・画像に記録化することは,「接見」の範囲に含まれず,接見交通権によって保障されないと判示した。
その理由として,「『接見』という文言が『面会』と同義に解される」こと,刑事訴訟法が「制定された昭和23年7月10日当時,カメラやビデオ等の撮影機器は普及しておらず,弁護人等が被告人を写真撮影したり,動画撮影したりすることは想定されていなかった」ことなどを挙げている。
その上で,本判決は,原審判決が判示した「罪証隠滅等の蓋然性」を要せず,単に刑事施設が刑事施設自身の判断で定めた規律を侵害する行為があれば,弁護人の接見を中断できると判示した。
⑷ 本判決の問題点
ア 刑事訴訟法39条1項の不合理な解釈
刑事訴訟法39条1項が規定する接見交通権は,憲法34条に由来する被疑者・被告人が弁護人から援助を受ける権利の中核とも言うべき,刑事手続上最も重要な権利である。
しかしながら,上述したとおり,本判決は,「接見」と「面会」という文言を同義に解した上で,刑事訴訟法制定当時には,弁護人によるカメラやビデオを用いた撮影や録画が行われていなかったことが現在でもそのまま当てはまるような極めて安易な解釈をしている。
しかし,機器の普及により撮影や録画は極めて容易になった現在,捜査機関はこれらの方法を広く活用しており,被疑者の取調べにおいて録音・録画の義務付けが行われようとしている。これに比すると,弁護人にカメラやビデオを用いた撮影や録画を一切認めなくてもよいかのような判断は,時代に逆行し,弁護人の権限を著しく制限する不合理なものであるといえる。
さらに,本判決は,時代の流れとともに,憲法13条に規定される「幸福追求権」のうちにプライバシー権が認められるなど,文言内に当然読み込むことができるものは,その権利性が認められるというこれまでの判例法理とも明らかに異なる判断である。
イ 「罪証隠滅等の蓋然性」を要しないとした点の誤り
本判決は,刑事収容施設法117条及び113条の定める「刑事施設の規律及び秩序を害する行為」として刑事施設が独自に定めた行為を弁護人が行った場合には,その行為に罪証隠滅等の蓋然性が認められなくても,刑事施設が弁護人の接見をいつでも中止できると判示したものである。このような判示は,近時頻発している,刑事収容施設による弁護人の接見交通権として保障される接見時の写真撮影などの制限を,無条件に許容するものであって,刑事弁護に対する理解を欠くものと評価せざるを得ない。
本判決により,刑事弁護を担う弁護士が,将来の訴訟行為や防禦活動のために行うべき接見室内における被疑者・被告人の言動等の記録化を躊躇し,ひいては十全な弁護活動に支障を来すようなことがあってはならない。
⑸ まとめ
以上より,当会は,本判決の法令解釈の不合理性,刑事弁護に対する理解の欠如に対し,強い抗議の意思を表明するため,本声明を出すものである。
以上