会長声明2016.03.25
死刑執行に関する会長声明
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 本日、大阪拘置所において75歳の男性死刑囚1名に対し、福岡拘置所において56歳の女性死刑囚1名に対し、死刑が執行された。。昨年10月7日に岩城光英法務大臣が就任してから、2度目の執行であり、前回の12月の執行から3か月あまりでの執行である。また、第2次安倍内閣以降で死刑が執行されたのは、9回目で、合わせて16人となった。極めて遺憾な事態であり、死刑執行について強く抗議する。
2 死刑の廃止は国際的な趨勢であり、死刑を存置している国は58か国であるが,2014年に実際に死刑を執行した国は更に少なく,日本を含め22か国であった。また、いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国の3か国のみであるが、韓国は、1997年の年末に執行して以来、約18年執行しておらず、事実上の死刑廃止国と評価され、米国は死刑廃止州は19州、知事による執行停止州は4州あることから、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。
国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、2008年10月、総括所見において、「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告を行い、2014年7月24日には、死刑の廃止について十分に考慮することや、執行の事前告知、死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等の勧告を行っている。
更に、2014年12月18日、国連総会において、全ての死刑存続国に対し、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、過去最高数である117カ国の賛成多数で採択されている。
こうした国際的な趨勢状況及び国連関係機関から繰り返し死刑執行の停止・死刑制度の廃止に向けた措置を検討するように勧告を受けながらも、死刑制度を存置し、かつ死刑の執行を繰り返す日本政府の姿勢は際立っている。
3 また、死刑制度の大きな問題点の1つとして、死刑が一度執行されてしまうと権利回復は最早不可能であり、取り返しの付かない結果となることがあげられる。
1980年代に4名の死刑確定者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように誤判の可能性は否定できない。また、裁判当時においては判明し得なかった証拠上の問題点が科学技術の進歩により明らかになるという事情もある。実際、2014年3月27日、静岡地方裁判所は、「袴田事件」につき、犯行時の着衣とされていた衣類に付着した血痕のDNA型が袴田氏のDNA型と「一致しない」との弁護側提出の鑑定書などの証拠を新規性あるものと認め、死刑確定者に対する再審を開始する旨の決定を下している。
4 2014年、内閣府の実施した世論調査では、「死刑はやむを得ない」とする回答者が約80%を占めたが、その中で、状況が変われば将来死刑を廃止してよいと考える意見は約40%、将来的にも死刑を存置すべきとする意見は約57%であり、将来的にも死刑を存置すべきとする意見は、全体の約46%であった。
日本弁護士連合会は、2015年12月9日,岩城法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し、死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。この要請を無視してなされた死刑執行は、当会としても到底容認することができない。
5 当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、死刑制度の廃止について全社会的議論を直ちに開始することを求めるものである。
以上
広島弁護士会
会長 木村 豊
1 本日、大阪拘置所において75歳の男性死刑囚1名に対し、福岡拘置所において56歳の女性死刑囚1名に対し、死刑が執行された。。昨年10月7日に岩城光英法務大臣が就任してから、2度目の執行であり、前回の12月の執行から3か月あまりでの執行である。また、第2次安倍内閣以降で死刑が執行されたのは、9回目で、合わせて16人となった。極めて遺憾な事態であり、死刑執行について強く抗議する。
2 死刑の廃止は国際的な趨勢であり、死刑を存置している国は58か国であるが,2014年に実際に死刑を執行した国は更に少なく,日本を含め22か国であった。また、いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・米国の3か国のみであるが、韓国は、1997年の年末に執行して以来、約18年執行しておらず、事実上の死刑廃止国と評価され、米国は死刑廃止州は19州、知事による執行停止州は4州あることから、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。
国際人権(自由権)規約委員会は、日本政府に対し、2008年10月、総括所見において、「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告を行い、2014年7月24日には、死刑の廃止について十分に考慮することや、執行の事前告知、死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等の勧告を行っている。
更に、2014年12月18日、国連総会において、全ての死刑存続国に対し、「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が、過去最高数である117カ国の賛成多数で採択されている。
こうした国際的な趨勢状況及び国連関係機関から繰り返し死刑執行の停止・死刑制度の廃止に向けた措置を検討するように勧告を受けながらも、死刑制度を存置し、かつ死刑の執行を繰り返す日本政府の姿勢は際立っている。
3 また、死刑制度の大きな問題点の1つとして、死刑が一度執行されてしまうと権利回復は最早不可能であり、取り返しの付かない結果となることがあげられる。
1980年代に4名の死刑確定者に対する再審無罪判決がなされたことに見られるように誤判の可能性は否定できない。また、裁判当時においては判明し得なかった証拠上の問題点が科学技術の進歩により明らかになるという事情もある。実際、2014年3月27日、静岡地方裁判所は、「袴田事件」につき、犯行時の着衣とされていた衣類に付着した血痕のDNA型が袴田氏のDNA型と「一致しない」との弁護側提出の鑑定書などの証拠を新規性あるものと認め、死刑確定者に対する再審を開始する旨の決定を下している。
4 2014年、内閣府の実施した世論調査では、「死刑はやむを得ない」とする回答者が約80%を占めたが、その中で、状況が変われば将来死刑を廃止してよいと考える意見は約40%、将来的にも死刑を存置すべきとする意見は約57%であり、将来的にも死刑を存置すべきとする意見は、全体の約46%であった。
日本弁護士連合会は、2015年12月9日,岩城法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し、死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。この要請を無視してなされた死刑執行は、当会としても到底容認することができない。
5 当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、日本政府が速やかに死刑の執行を一時停止し、死刑制度の廃止について全社会的議論を直ちに開始することを求めるものである。
以上