会長声明2016.08.10
面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の最高裁決定についての会長声明
広島弁護士会
会長 爲末 和政
1 声明の趣旨
当会は,弁護人が被疑者・被告人との接見の際に,写真撮影・録画を行うことは,接見交通権として保障されるべき行為であることを改めて表明し,関係各機関に対し,弁護人と被疑者・被告人との間の自由な接見交通を保障することを強く求める。
2 声明の理由
⑴ 接見の妨害
2012年(平成24年)3月30日,東京弁護士会所属の弁護士が,弁護人として,東京拘置所において,勾留中の被告人と接見中に,被告人の精神状態が尋常ではないと思われたため,その様子を保全するためにデジタルカメラで写真撮影をしていたところ,拘置所職員から撮影を禁止され,更に,当該接見を中止させられた。そのため,当該弁護士は,この中止行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として,国家賠償を求めた(いわゆる「竹内国賠」)。
⑵ 第一審及び第二審の判決
東京地方裁判所民事第39部は,竹内国賠に関し,当該弁護士の請求に一部理由があるとして,一部認容判決を下した。しかし,東京高等裁判所第2民事部は,2015年(平成27年)7月9日,原判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの逆転判決を言い渡した(以下「東京高裁判決」という。)。
⑶ 最高裁判所の決定
2016年(平成28年)6月15日,最高裁判所第二小法廷は,東京高裁判決に対する上告及び上告受理申立を退ける決定を行った(以下「本決定」という。)。
⑷ 本決定の問題点
接見交通権は,憲法34条が保障する,被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利の中核ともいうべき刑事手続上最も重要な権利の一つである。それにもかかわらず,東京高裁判決は,弁護人が行う写真撮影,録画等の行為を国家権力が庁舎管理権に基づき,施設内の規律と秩序を護るという名目で制約することを認めたものであって,接見交通権に対する広範な制約を認めるに等しい内容であった。
このように,竹内国賠では,憲法34条が保障する「接見交通権」の内実が問われていたものであり,上記以外に同種の国家賠償請求訴訟が提起されていることや,「接見は口頭での意思連絡に限定されない」旨判示した大阪高等裁判所2005年(平成17年)1月25日判決が存在することを考慮すると,最高裁判所はこの点に対し,明確な見解を述べるべきであった。
本件では,このような重要な論点を含むにもかかわらず,最高裁判所は,憲法判断を示さなかったばかりか,過去の最高裁判例等と相反する判断も,その他の法令の解釈に関する重要な事項も含まないとして,上告受理申立を退けたものであるから,本決定は,極めて不当な決定である。
⑸ まとめ
以上より,本決定を受けて,当会は,被疑者・被告人との接見に際して,弁護人が行う写真撮影や録画行為等は,接見交通権として保障されるべき行為であることを改めて表明し,関係各機関に対し,上記声明の趣旨のとおり,自由な接見交通の保障を強く求めるものである。
以上
広島弁護士会
会長 爲末 和政
1 声明の趣旨
当会は,弁護人が被疑者・被告人との接見の際に,写真撮影・録画を行うことは,接見交通権として保障されるべき行為であることを改めて表明し,関係各機関に対し,弁護人と被疑者・被告人との間の自由な接見交通を保障することを強く求める。
2 声明の理由
⑴ 接見の妨害
2012年(平成24年)3月30日,東京弁護士会所属の弁護士が,弁護人として,東京拘置所において,勾留中の被告人と接見中に,被告人の精神状態が尋常ではないと思われたため,その様子を保全するためにデジタルカメラで写真撮影をしていたところ,拘置所職員から撮影を禁止され,更に,当該接見を中止させられた。そのため,当該弁護士は,この中止行為について,弁護人の接見交通権や弁護活動の自由を侵害することを理由として,国家賠償を求めた(いわゆる「竹内国賠」)。
⑵ 第一審及び第二審の判決
東京地方裁判所民事第39部は,竹内国賠に関し,当該弁護士の請求に一部理由があるとして,一部認容判決を下した。しかし,東京高等裁判所第2民事部は,2015年(平成27年)7月9日,原判決を取り消し,請求をすべて棄却するとの逆転判決を言い渡した(以下「東京高裁判決」という。)。
⑶ 最高裁判所の決定
2016年(平成28年)6月15日,最高裁判所第二小法廷は,東京高裁判決に対する上告及び上告受理申立を退ける決定を行った(以下「本決定」という。)。
⑷ 本決定の問題点
接見交通権は,憲法34条が保障する,被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利の中核ともいうべき刑事手続上最も重要な権利の一つである。それにもかかわらず,東京高裁判決は,弁護人が行う写真撮影,録画等の行為を国家権力が庁舎管理権に基づき,施設内の規律と秩序を護るという名目で制約することを認めたものであって,接見交通権に対する広範な制約を認めるに等しい内容であった。
このように,竹内国賠では,憲法34条が保障する「接見交通権」の内実が問われていたものであり,上記以外に同種の国家賠償請求訴訟が提起されていることや,「接見は口頭での意思連絡に限定されない」旨判示した大阪高等裁判所2005年(平成17年)1月25日判決が存在することを考慮すると,最高裁判所はこの点に対し,明確な見解を述べるべきであった。
本件では,このような重要な論点を含むにもかかわらず,最高裁判所は,憲法判断を示さなかったばかりか,過去の最高裁判例等と相反する判断も,その他の法令の解釈に関する重要な事項も含まないとして,上告受理申立を退けたものであるから,本決定は,極めて不当な決定である。
⑸ まとめ
以上より,本決定を受けて,当会は,被疑者・被告人との接見に際して,弁護人が行う写真撮影や録画行為等は,接見交通権として保障されるべき行為であることを改めて表明し,関係各機関に対し,上記声明の趣旨のとおり,自由な接見交通の保障を強く求めるものである。
以上