会長声明2017.03.08
テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)に反対する会長声明
広島弁護士会
会長 爲末和政
1 報道によると、政府は、過去3度国会において廃案となった「共謀罪」関連法案を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を変更し、内容を一部改定の上、本通常国会に提出する予定とのことである。
2 当会は、過去において会長声明を発し、「共謀罪」は、憲法が保障する思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由が害される危険が極めて高いこと、予備以前の行為を処罰するという点から見ると、わが国の刑事処罰の体系の中でも極めて異質なもので、共謀罪を新設しなければ社会の安全が保てないという社会的な要請もなければ立法事実も存在しないものであること等を理由に反対してきた。
3 現在、報道されている改定案は、当初政府案と比べると、適用対象を「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とし(その「組織的犯罪集団」の定義については、「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とする)、処罰対象となる行為について「共謀」としていたものを「2人以上で計画した者」とし、処罰条件として「準備行為」が加えられている。更に近時の報道では、対象犯罪も、当初政府案では600以上あったものを200~300(一部報道によると5分野277)に限定することを検討している、とのことである。
4 これまで政府は、共謀罪制定の理由について、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「条約」という。)の批准のためであり、条約の批准との関係で罪名の限定はできない、と説明していた。
しかし、現在、罪名を200~300に限定することを検討している、との内容は、これまでの政府説明と明らかに矛盾している。
また、条約は、もともと経済的組織犯罪対策を念頭に置いていたものであり、テロ対策が直接の目的ではなかった。
現在、政府は、法制定の目的は、テロ対策である旨を強調している。しかし、テロ対策についても、既に日本はテロ防止関連の13条約に加入しているし、国内法においても、内乱・外患予備陰謀罪、殺人・強盗・放火・身代金目的誘拐の予備罪、凶器準備集合罪などが既に犯罪として規定されており、更に、化学兵器、サリン、航空機の強取、覚せい剤取締法、銃砲刀剣類所持等取締法など特別法で違反類型の中で予備罪が既に設けられている。それに加え、判例上も共謀共同正犯が処罰されている。このような状況に鑑みると、テロ対策として新たに広汎な範囲に及ぶ予備以前の共謀を処罰する立法の必要はない。
そして、このようなテロ防止条約を締結し、国内法が存在する以上、条約の批准のために広汎な共謀罪を新設する必要もない。
5 また、「テロ等組織犯罪準備罪」法案の本質的な問題点は、従前の「共謀罪」法案と変わっていない。
「組織的犯罪集団」の定義については、他の組織犯罪を処罰する法律である暴対法、破壊活動防止法等に見られる「継続性」「反復性」「常習性」といった要件はないため、主体がテロ組織、暴力団、薬物密売集団等に限定される保障はなく、市民団体、労働組合等が処罰対象とされる可能性がある。
そして、「計画」とは「犯罪の合意」にほかならず、共謀を処罰するという法的性質は何ら変わっていないし、「準備行為」についても、予備罪・準備罪における予備・準備行為より前の段階の危険性の乏しい行為を幅広く含み得るものであり、その適用範囲が十分に限定されたと見ることはできない。
また、仮に法案が成立した場合は、「計画」が主要な犯罪成立要件となるから、その捜査手法として、通信傍受や会話傍受が拡大される可能性もあり、そのような捜査手法が認められるとすると、私人の日常生活に警察が恒常的に介入することにもなりかねず、一般市民のプライバシーを大きく侵害することになる。
このように、政府が提出を予定しているとされる「テロ等組織犯罪準備罪」法案は、成立要件が極めてあいまいで処罰範囲が広汎であって、捜査機関の恣意的運用を許すおそれがあり、憲法が保障する思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由を害する危険が極めて高いこと、法益侵害及びその危険性を処罰根拠としてきたわが国の刑事処罰の体系の中でも極めて異質なものであることという点において、従前の「共謀罪」法案と変わりはない。
6 よって、当会は、「テロ等組織犯罪準備罪」の新設に反対する。
以上
広島弁護士会
会長 爲末和政
1 報道によると、政府は、過去3度国会において廃案となった「共謀罪」関連法案を「テロ等組織犯罪準備罪」と名称を変更し、内容を一部改定の上、本通常国会に提出する予定とのことである。
2 当会は、過去において会長声明を発し、「共謀罪」は、憲法が保障する思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由が害される危険が極めて高いこと、予備以前の行為を処罰するという点から見ると、わが国の刑事処罰の体系の中でも極めて異質なもので、共謀罪を新設しなければ社会の安全が保てないという社会的な要請もなければ立法事実も存在しないものであること等を理由に反対してきた。
3 現在、報道されている改定案は、当初政府案と比べると、適用対象を「団体」としていたものを「組織的犯罪集団」とし(その「組織的犯罪集団」の定義については、「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」とする)、処罰対象となる行為について「共謀」としていたものを「2人以上で計画した者」とし、処罰条件として「準備行為」が加えられている。更に近時の報道では、対象犯罪も、当初政府案では600以上あったものを200~300(一部報道によると5分野277)に限定することを検討している、とのことである。
4 これまで政府は、共謀罪制定の理由について、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」(以下「条約」という。)の批准のためであり、条約の批准との関係で罪名の限定はできない、と説明していた。
しかし、現在、罪名を200~300に限定することを検討している、との内容は、これまでの政府説明と明らかに矛盾している。
また、条約は、もともと経済的組織犯罪対策を念頭に置いていたものであり、テロ対策が直接の目的ではなかった。
現在、政府は、法制定の目的は、テロ対策である旨を強調している。しかし、テロ対策についても、既に日本はテロ防止関連の13条約に加入しているし、国内法においても、内乱・外患予備陰謀罪、殺人・強盗・放火・身代金目的誘拐の予備罪、凶器準備集合罪などが既に犯罪として規定されており、更に、化学兵器、サリン、航空機の強取、覚せい剤取締法、銃砲刀剣類所持等取締法など特別法で違反類型の中で予備罪が既に設けられている。それに加え、判例上も共謀共同正犯が処罰されている。このような状況に鑑みると、テロ対策として新たに広汎な範囲に及ぶ予備以前の共謀を処罰する立法の必要はない。
そして、このようなテロ防止条約を締結し、国内法が存在する以上、条約の批准のために広汎な共謀罪を新設する必要もない。
5 また、「テロ等組織犯罪準備罪」法案の本質的な問題点は、従前の「共謀罪」法案と変わっていない。
「組織的犯罪集団」の定義については、他の組織犯罪を処罰する法律である暴対法、破壊活動防止法等に見られる「継続性」「反復性」「常習性」といった要件はないため、主体がテロ組織、暴力団、薬物密売集団等に限定される保障はなく、市民団体、労働組合等が処罰対象とされる可能性がある。
そして、「計画」とは「犯罪の合意」にほかならず、共謀を処罰するという法的性質は何ら変わっていないし、「準備行為」についても、予備罪・準備罪における予備・準備行為より前の段階の危険性の乏しい行為を幅広く含み得るものであり、その適用範囲が十分に限定されたと見ることはできない。
また、仮に法案が成立した場合は、「計画」が主要な犯罪成立要件となるから、その捜査手法として、通信傍受や会話傍受が拡大される可能性もあり、そのような捜査手法が認められるとすると、私人の日常生活に警察が恒常的に介入することにもなりかねず、一般市民のプライバシーを大きく侵害することになる。
このように、政府が提出を予定しているとされる「テロ等組織犯罪準備罪」法案は、成立要件が極めてあいまいで処罰範囲が広汎であって、捜査機関の恣意的運用を許すおそれがあり、憲法が保障する思想信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由を害する危険が極めて高いこと、法益侵害及びその危険性を処罰根拠としてきたわが国の刑事処罰の体系の中でも極めて異質なものであることという点において、従前の「共謀罪」法案と変わりはない。
6 よって、当会は、「テロ等組織犯罪準備罪」の新設に反対する。
以上