会長声明2018.03.07
広島拘置所における弁護人による手紙の差入れに関する国家賠償請求訴訟の広島高裁判決についての会長声明
広島弁護士会
会長 下中奈美
1 声明の趣旨
当会は,弁護人及び弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)から被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)に対する書類の差入れは接見交通権の行使として当然に保障されるべき行為であるから,関係各機関に対し,弁護人等と被疑者等の間のあらゆる書類の授受を妨げないよう強く求める。
2 声明の理由
⑴ 接見の妨害
2012(平成24)年4月11日,当会に所属する弁護士が,弁護人として,広島拘置所の差入れ窓口において,刑事裁判において証拠として提出する予定であった被告人の母からの手紙を勾留中の被告人に差入れようとした(以下「本件差入れ」という。)ところ,広島拘置所は,「信書」の差入れは郵便でなければ受け付けないことを理由に,本件差入れを拒絶した。そのため,当該弁護士は,この差入れの拒絶について,弁護人の接見交通権を侵害することを理由として,国家賠償を求めた。
⑵ 第一審の判決
広島地方裁判所民事第3部は,2016(平成28)年5月11日,上記⑴の国家賠償請求に関し,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「処遇法」という。)及び同規則には,「信書」の授受は郵便の方法に限ることができるとされているという形式的な理由から,当該弁護士の請求には理由がないとして,同請求を棄却する旨の判決を下した(以下「広島地裁判決」という。)。
⑶ 第二審の判決
これに対し,第二審である広島高等裁判所第2部は,2017(平成29年)11月28日,処遇法にある「信書」とは,郵便法にある「信書」(特定の受取人に対し,差出人の意思を表示し,又は事実を通知する文書)全てを指すものではなく,差入れ窓口において差入れ可能な「物品」としての性質を有するものも存在し,刑事事件において取調べ請求予定の書類(手紙)は,処遇法上の「物品」として差入れるべきであるとして,広島拘置所の本件差入れ拒否が違法であると認定し,第一審の判決を変更して,当該弁護士の請求を一部認める判決を下した(以下「広島高裁判決」という。)。
⑷ 広島高裁判決の意義及び問題点
刑事訴訟法39条1項は,被告人又は被疑者に弁護人と書類等を授受する接見交通権を認めている。この権利は,被疑者等が弁護人から援助を受ける権利の中核をなす重要な権利であるところ,被告人又は被疑者と弁護人との間の書類の授受は,速やかに行われる必要がある。
広島地裁判決は,このような接見交通権の内実に関する理解を欠き,単に形式的に「信書」に該当しうることをもって,速やかな書類の授受の必要性を認めなかった。しかしながら,広島高裁判決では,これが見直され,弁護人等が裁判の証拠として用いるものについては,処遇法上の「物品」として扱い,速やかな授受を行うことができることを認めており,この点について,同判決の意義がある。
但し,広島高裁判決においても,刑事事件において取調べ請求予定の書類については,物品としての差入れを認めるべきであることは明示しているが,それ以外の書類についての差入れについて言及がされていない。刑事訴訟法39条1項において保障される「書類」等を授受する接見交通権の行使が制限されるべき理由はなく,本来的には,弁護人等が被疑者等に差入れを行おうとする書類に関しては,同条項に基づき,全て授受が可能であると解すべきであるため,この点についての言及がないことは,広島高裁判決における問題点である。
⑸ まとめ
以上より,当会は,弁護人等から被疑者等に対する書類の差入れは接見交通権の行使として当然に保障されるべき行為であるから,関係各機関に対し,弁護人等と被疑者等の間のあらゆる書類の授受を妨げないよう強く求める。
以上
広島弁護士会
会長 下中奈美
1 声明の趣旨
当会は,弁護人及び弁護人になろうとする者(以下「弁護人等」という。)から被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)に対する書類の差入れは接見交通権の行使として当然に保障されるべき行為であるから,関係各機関に対し,弁護人等と被疑者等の間のあらゆる書類の授受を妨げないよう強く求める。
2 声明の理由
⑴ 接見の妨害
2012(平成24)年4月11日,当会に所属する弁護士が,弁護人として,広島拘置所の差入れ窓口において,刑事裁判において証拠として提出する予定であった被告人の母からの手紙を勾留中の被告人に差入れようとした(以下「本件差入れ」という。)ところ,広島拘置所は,「信書」の差入れは郵便でなければ受け付けないことを理由に,本件差入れを拒絶した。そのため,当該弁護士は,この差入れの拒絶について,弁護人の接見交通権を侵害することを理由として,国家賠償を求めた。
⑵ 第一審の判決
広島地方裁判所民事第3部は,2016(平成28)年5月11日,上記⑴の国家賠償請求に関し,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「処遇法」という。)及び同規則には,「信書」の授受は郵便の方法に限ることができるとされているという形式的な理由から,当該弁護士の請求には理由がないとして,同請求を棄却する旨の判決を下した(以下「広島地裁判決」という。)。
⑶ 第二審の判決
これに対し,第二審である広島高等裁判所第2部は,2017(平成29年)11月28日,処遇法にある「信書」とは,郵便法にある「信書」(特定の受取人に対し,差出人の意思を表示し,又は事実を通知する文書)全てを指すものではなく,差入れ窓口において差入れ可能な「物品」としての性質を有するものも存在し,刑事事件において取調べ請求予定の書類(手紙)は,処遇法上の「物品」として差入れるべきであるとして,広島拘置所の本件差入れ拒否が違法であると認定し,第一審の判決を変更して,当該弁護士の請求を一部認める判決を下した(以下「広島高裁判決」という。)。
⑷ 広島高裁判決の意義及び問題点
刑事訴訟法39条1項は,被告人又は被疑者に弁護人と書類等を授受する接見交通権を認めている。この権利は,被疑者等が弁護人から援助を受ける権利の中核をなす重要な権利であるところ,被告人又は被疑者と弁護人との間の書類の授受は,速やかに行われる必要がある。
広島地裁判決は,このような接見交通権の内実に関する理解を欠き,単に形式的に「信書」に該当しうることをもって,速やかな書類の授受の必要性を認めなかった。しかしながら,広島高裁判決では,これが見直され,弁護人等が裁判の証拠として用いるものについては,処遇法上の「物品」として扱い,速やかな授受を行うことができることを認めており,この点について,同判決の意義がある。
但し,広島高裁判決においても,刑事事件において取調べ請求予定の書類については,物品としての差入れを認めるべきであることは明示しているが,それ以外の書類についての差入れについて言及がされていない。刑事訴訟法39条1項において保障される「書類」等を授受する接見交通権の行使が制限されるべき理由はなく,本来的には,弁護人等が被疑者等に差入れを行おうとする書類に関しては,同条項に基づき,全て授受が可能であると解すべきであるため,この点についての言及がないことは,広島高裁判決における問題点である。
⑸ まとめ
以上より,当会は,弁護人等から被疑者等に対する書類の差入れは接見交通権の行使として当然に保障されるべき行為であるから,関係各機関に対し,弁護人等と被疑者等の間のあらゆる書類の授受を妨げないよう強く求める。
以上