総会決議2011.05.23
全面的国選付添人制度の実現と少年鑑別所の増設を求める総会決議
広島弁護士会
第1 決議事項
当会は,国に対し,国選付添人制度の対象事件を,少年鑑別所に送致された少年保護事件の全件にまで拡大する旨の少年法改正及び広島県下に少年鑑別所ないし少年鑑別所支所をさらに1か所以上増設する旨の法務省令改正を速やかに行うよう強く求める。
第2 提案理由
1 少年審判事件において,弁護士は,付添人として,非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるための活動とともに,家庭や学校・職場など少年を取りまく環境の調整を行い,少年の立ち直りを支援する活動も行っている。特に,少年は成人に比して未成熟なために虚偽自白を余儀なくされる等のえん罪の危険性が大きく,また,虐待・学校での疎外等の環境不良が少年の非行原因の大きな部分を占める。そのため,少年に対して法的援助を行うとともに,環境調整を行うなどして少年の成長・更生を支援する弁護士付添人の存在は,極めて重要である。
にもかかわらず,弁護士付添人の選任率は,家庭裁判所の観護措置決定により少年鑑別所に収容され審判を受けた少年(11,241人)の約49.5%(5,562人),審判を受けた少年全体(54,254人)の約11.3%(6,139人)にすぎない(2009年統計)。成人の刑事手続において被告人の約98.9%に弁護人が付されている(同年統計)ことと比較すると,心身ともに未成熟な少年に対する法的援助が不十分な状況にあることは明らかである。
2 このような状況が生じている大きな原因として,少年審判事件における国選付添人制度の対象事件が,主に殺人や強盗などの重大事件に限定されていることが挙げられる。そのうえ,国選付添人を選任するか否かは家庭裁判所の裁量に委ねられており,このことが,国選付添人選任率が約4.6%(516人)(同年統計)と低く抑えられている大きな原因となっているのである。
加えて,2009年5月から被疑者段階の国選弁護人制度の対象事件が拡大されたため,窃盗や傷害等の事件についても被疑者段階で国選弁護人が選任されるようになったが,国選付添人制度の対象事件は,前記のとおり,重大事件に限定されたままであるため,捜査の段階では国選弁護人が選任されているにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると,国選弁護人選任は失効し,国選付添人が選任されないまま審判が行われるという事態が生じており,被疑者の権利擁護の充実を図った国選弁護人制度の趣旨が国選付添人制度には生かされていないという制度上の矛盾は一層明らかとなっている。
少年鑑別所に収容された少年は,その生育歴・家庭環境にも大きな問題を抱えるケースが多く,窃盗や傷害等の事件でも少年院送致や児童自立支援施設送致等の重大な処分を受ける可能性が高く,弁護士付添人による援助の必要性は罪名及び法定刑の軽重で区別すべきでない。この点,国連子どもの権利委員会は,第3回日本政府報告書審査に基づく最終見解(2010年6月)において,少年司法に関し,「すべての児童が手続きのあらゆる段階で法的及びその他の支援を受けられることを確保すること。」(パラグラフ85(d))と勧告しているところである。
3 こうした問題状況を打開すべく,日弁連は,少年に対する法的援助を充実させる臨時的・暫定的措置として,少年保護事件付添援助制度を設けている。これは,全会員が特別会費を負担して設置する少年・刑事財政基金を財源として,国選付添人が選任されない事件の少年・保護者に対して弁護士費用を援助する制度である。2009年度の援助件数は6,912件,援助額は約7億円に上る。
また,当会では,前記の日弁連の援助制度に加えて,当会独自の加算援助として,謄写費用や交通費など必要と認められる実費の援助を行っており,例えば,否認事件で法律記録の謄写費用が嵩む場合や,支部管轄の少年保護事件において,少年との面会,審判立ち会い,環境調整や被害弁償等のために,当会会員が各自の事務所から遠方にある少年鑑別所や家庭裁判所支部に赴く必要があって,交通費が嵩む場合などでも,充実した付添人活動が行われるように必要と認められる実費を援助しているところである。
しかし,捜査から少年審判に至る一連の手続きにおいて,適正な手続きを保障し,少年の更生を支援するという法的援助を与えることは,本来,国の責務である。心身ともに未成熟であり,必要性がより高いにもかかわらず,少年への法的援助が成人よりも不十分である,というアンバランスな状況は速やかに改善されなければならない。とりわけ,少年鑑別所で身体を拘束された少年については,精神的負担が大きい上,前記のとおり事件の軽重を問わずその生育歴・家庭環境にも大きな問題を抱えるケースが多いこと,少年院送致などの重大な処分を受ける可能性が高いことから,国選付添人による法的援助を受ける機会を保障するため,早急に国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大しなければならない。
なお,国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大にあたっては,充実した付添人活動が制度的にも確保されるように,謄写費用や交通費などの実費の支給がなされるよう制度設計されなければならないことはいうまでもない。
4 もっとも,国選付添人制度の対象事件が,少年鑑別所に送致された少年保護事件の全件にまで拡大されたとしても,現時点では少年鑑別所が各都道府県庁所在地など全国で52か所(分所1か所を含む。)にしか設置されておらず,このような少年鑑別所の偏在が,付添人の充実した活動の妨げとなっている。
具体的には,少年院及び少年鑑別所組織規則の別表第三(第12条関係)によると,北海道には4か所(なお,道内には地裁が合計4か所ある),東京に2か所少年鑑別所がある外は,各府県に1か所しか少年鑑別所がなく,同規則別表第四(第18条関係)により福岡少年鑑別所に小倉少年鑑別支所が設置されていることを除き,少年鑑別所の支所は設置されていない。
当会の管轄する広島県下でも,広島市内に1か所しか少年鑑別所が設置されていないため,広島家庭裁判所の各支部(福山,尾道,呉及び三次)管轄の少年保護事件であっても,家庭裁判所から観護措置決定を受けた少年は広島市内にある広島少年鑑別所で身体を拘束され心身鑑別を受けることとなっている。
そのため,各支部に事務所を構える当会会員が広島少年鑑別所で面会を行う場合には,長距離の移動を余儀なくされる。
このような面会に伴う負担を避けるために広島市内に事務所を構える当会会員が支部事件の付添人となったとしても,家庭裁判所各支部での少年審判立ち会い,審判準備のための記録閲覧及び保護者等の関係者との環境調整や被害弁償等のために結局長距離の移動を余儀なくされるため,問題の解決とはならない。
もとより,当会会員は,このような負担があったとしても充実した付添人活動を行うよう努力しているところであるが,そもそも少年鑑別所が広島県下に1か所しか設置されておらず,少年にその住所地での心身鑑別と付添人による法的援助を受ける機会が保障されていないことが問題である。
よって,国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大とともに,少年にその住所地での心身鑑別と付添人による法的援助を受ける機会が保障されるよう,広島県下に少年鑑別所ないし少年鑑別所支所をさらに1か所以上増設する旨の法務省令改正がなされなければならない。
5 よって,頭書のとおり,決議するものである。
以上
広島弁護士会
第1 決議事項
当会は,国に対し,国選付添人制度の対象事件を,少年鑑別所に送致された少年保護事件の全件にまで拡大する旨の少年法改正及び広島県下に少年鑑別所ないし少年鑑別所支所をさらに1か所以上増設する旨の法務省令改正を速やかに行うよう強く求める。
第2 提案理由
1 少年審判事件において,弁護士は,付添人として,非行事実の認定や保護処分の必要性の判断が適正に行われるための活動とともに,家庭や学校・職場など少年を取りまく環境の調整を行い,少年の立ち直りを支援する活動も行っている。特に,少年は成人に比して未成熟なために虚偽自白を余儀なくされる等のえん罪の危険性が大きく,また,虐待・学校での疎外等の環境不良が少年の非行原因の大きな部分を占める。そのため,少年に対して法的援助を行うとともに,環境調整を行うなどして少年の成長・更生を支援する弁護士付添人の存在は,極めて重要である。
にもかかわらず,弁護士付添人の選任率は,家庭裁判所の観護措置決定により少年鑑別所に収容され審判を受けた少年(11,241人)の約49.5%(5,562人),審判を受けた少年全体(54,254人)の約11.3%(6,139人)にすぎない(2009年統計)。成人の刑事手続において被告人の約98.9%に弁護人が付されている(同年統計)ことと比較すると,心身ともに未成熟な少年に対する法的援助が不十分な状況にあることは明らかである。
2 このような状況が生じている大きな原因として,少年審判事件における国選付添人制度の対象事件が,主に殺人や強盗などの重大事件に限定されていることが挙げられる。そのうえ,国選付添人を選任するか否かは家庭裁判所の裁量に委ねられており,このことが,国選付添人選任率が約4.6%(516人)(同年統計)と低く抑えられている大きな原因となっているのである。
加えて,2009年5月から被疑者段階の国選弁護人制度の対象事件が拡大されたため,窃盗や傷害等の事件についても被疑者段階で国選弁護人が選任されるようになったが,国選付添人制度の対象事件は,前記のとおり,重大事件に限定されたままであるため,捜査の段階では国選弁護人が選任されているにもかかわらず,家庭裁判所に送致されると,国選弁護人選任は失効し,国選付添人が選任されないまま審判が行われるという事態が生じており,被疑者の権利擁護の充実を図った国選弁護人制度の趣旨が国選付添人制度には生かされていないという制度上の矛盾は一層明らかとなっている。
少年鑑別所に収容された少年は,その生育歴・家庭環境にも大きな問題を抱えるケースが多く,窃盗や傷害等の事件でも少年院送致や児童自立支援施設送致等の重大な処分を受ける可能性が高く,弁護士付添人による援助の必要性は罪名及び法定刑の軽重で区別すべきでない。この点,国連子どもの権利委員会は,第3回日本政府報告書審査に基づく最終見解(2010年6月)において,少年司法に関し,「すべての児童が手続きのあらゆる段階で法的及びその他の支援を受けられることを確保すること。」(パラグラフ85(d))と勧告しているところである。
3 こうした問題状況を打開すべく,日弁連は,少年に対する法的援助を充実させる臨時的・暫定的措置として,少年保護事件付添援助制度を設けている。これは,全会員が特別会費を負担して設置する少年・刑事財政基金を財源として,国選付添人が選任されない事件の少年・保護者に対して弁護士費用を援助する制度である。2009年度の援助件数は6,912件,援助額は約7億円に上る。
また,当会では,前記の日弁連の援助制度に加えて,当会独自の加算援助として,謄写費用や交通費など必要と認められる実費の援助を行っており,例えば,否認事件で法律記録の謄写費用が嵩む場合や,支部管轄の少年保護事件において,少年との面会,審判立ち会い,環境調整や被害弁償等のために,当会会員が各自の事務所から遠方にある少年鑑別所や家庭裁判所支部に赴く必要があって,交通費が嵩む場合などでも,充実した付添人活動が行われるように必要と認められる実費を援助しているところである。
しかし,捜査から少年審判に至る一連の手続きにおいて,適正な手続きを保障し,少年の更生を支援するという法的援助を与えることは,本来,国の責務である。心身ともに未成熟であり,必要性がより高いにもかかわらず,少年への法的援助が成人よりも不十分である,というアンバランスな状況は速やかに改善されなければならない。とりわけ,少年鑑別所で身体を拘束された少年については,精神的負担が大きい上,前記のとおり事件の軽重を問わずその生育歴・家庭環境にも大きな問題を抱えるケースが多いこと,少年院送致などの重大な処分を受ける可能性が高いことから,国選付添人による法的援助を受ける機会を保障するため,早急に国選付添人制度の対象事件の範囲を拡大しなければならない。
なお,国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大にあたっては,充実した付添人活動が制度的にも確保されるように,謄写費用や交通費などの実費の支給がなされるよう制度設計されなければならないことはいうまでもない。
4 もっとも,国選付添人制度の対象事件が,少年鑑別所に送致された少年保護事件の全件にまで拡大されたとしても,現時点では少年鑑別所が各都道府県庁所在地など全国で52か所(分所1か所を含む。)にしか設置されておらず,このような少年鑑別所の偏在が,付添人の充実した活動の妨げとなっている。
具体的には,少年院及び少年鑑別所組織規則の別表第三(第12条関係)によると,北海道には4か所(なお,道内には地裁が合計4か所ある),東京に2か所少年鑑別所がある外は,各府県に1か所しか少年鑑別所がなく,同規則別表第四(第18条関係)により福岡少年鑑別所に小倉少年鑑別支所が設置されていることを除き,少年鑑別所の支所は設置されていない。
当会の管轄する広島県下でも,広島市内に1か所しか少年鑑別所が設置されていないため,広島家庭裁判所の各支部(福山,尾道,呉及び三次)管轄の少年保護事件であっても,家庭裁判所から観護措置決定を受けた少年は広島市内にある広島少年鑑別所で身体を拘束され心身鑑別を受けることとなっている。
そのため,各支部に事務所を構える当会会員が広島少年鑑別所で面会を行う場合には,長距離の移動を余儀なくされる。
このような面会に伴う負担を避けるために広島市内に事務所を構える当会会員が支部事件の付添人となったとしても,家庭裁判所各支部での少年審判立ち会い,審判準備のための記録閲覧及び保護者等の関係者との環境調整や被害弁償等のために結局長距離の移動を余儀なくされるため,問題の解決とはならない。
もとより,当会会員は,このような負担があったとしても充実した付添人活動を行うよう努力しているところであるが,そもそも少年鑑別所が広島県下に1か所しか設置されておらず,少年にその住所地での心身鑑別と付添人による法的援助を受ける機会が保障されていないことが問題である。
よって,国選付添人制度の対象事件の範囲の拡大とともに,少年にその住所地での心身鑑別と付添人による法的援助を受ける機会が保障されるよう,広島県下に少年鑑別所ないし少年鑑別所支所をさらに1か所以上増設する旨の法務省令改正がなされなければならない。
5 よって,頭書のとおり,決議するものである。
以上