声明・決議・意見書

総会決議2015.05.27

集団的自衛権の行使等を含む安全保障法制に関する法案に反対する決議

広島弁護士会
会長 木村 豊

第1 決議の趣旨
当会は,集団的自衛権の行使等を含む安全保障法制に関する法案に強く反対する。

第2 決議の理由
1 従来,政府の憲法第9条解釈では,集団的自衛権については,その行使は許されないものと解されており,この政府解釈の下,集団的自衛権の行使を始めとする自衛の範囲を超える武力行使につながる怖れのある自衛隊の海外派遣は行わないものとされてきた。
そのため,当会は,2014(平成26)年5月27日,総会において,「憲法第9条の政府解釈変更による集団的自衛権行使に反対する決議」を採択するなど,政府が,それまでの憲法第9条の政府解釈を閣議決定だけで変更し,憲法違反となる集団的自衛権行使を容認しようとすることに強く反対を表明してきた。
しかしながら,政府は,日弁連や当会など多くの弁護士会からの反対表明にもかかわらず,同年7月1日,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定を行った。その内容は,集団的自衛権行使の容認のほか,自衛隊の活動領域及び武器使用が可能な範囲を拡大させるなど,これまでの日本の安全保障政策を大きく転換させるものであった。
2 そもそも,憲法は,最高法規(第98条)として国家権力を制限することによって,国民の権利・自由を守ることを目的としている(立憲主義)。憲法が,その前文及び第9条において恒久平和主義を定め,政府に対し,戦争及び武力の行使を放棄させ,戦力の不保持を要求しているのは,個人の尊重の原理(第13条)や平和的生存権(前文,第9条,第13条)を保障するためである。
にもかかわらず,長年にわたり形成されてきた憲法第9条の政府解釈を,憲法改正手続をとることなく,時の政府の閣議決定のみで変更し,集団的自衛権行使を容認する等,日本の安全保障政策を大転換させることは,立憲主義ひいては国民主権の基本原則に反するものであり,その手法は到底許されることではない。
3 本年5月15日,政府が国会に提出した安全保障法制に関する法案は,昨年7月1日の閣議決定に基づく法案であり,自衛隊法,武力攻撃事態対処法,周辺事態法,国際平和維持活動協力法等10の法律を一括改正する法案と,国際平和支援法という新法を制定するというものである。
これらの法案は,「存立危機事態」と認められる場合には,集団的自衛権の行使を認め,世界中のどこであっても自衛隊が米軍等の外国軍隊とともに武力を行使することを可能とし(自衛隊法,武力攻撃事態対処法),「重要影響事態」に該当すれば,我が国の周辺地域に限らず自衛隊の後方支援を可能とし(周辺事態法の改正による重要影響事態法),「国際平和共同対処事態」に該当すれば,これまでのように個別立法を作らなくても自衛隊が協力支援活動等を行うことができる(国際平和支援法)等としている。
そして,活動内容について,他国軍隊の武器防護のための武器使用のほか,在外邦人救出活動を自衛隊の任務に加え,在外邦人救出活動では任務遂行のための武器使用を可能とするほか(自衛隊法),いわゆるPKO活動において,国連平和維持活動への協力に限られていたのを,国連が統括しない有志連合等の「国際連携平和安全活動」にまで活動範囲を大きく広げ,これまで認めていなかった「安全確保業務」や「駆け付け警護」を行うことを可能とし,かつ,任務遂行のための武器使用を認めるものである(国際平和維持活動協力法)。さらに,武力行使を行っている他国軍隊への軍事支援活動は,戦闘現場ではない限り行うこと,しかも捜索救難活動については戦闘現場であっても行うことを可能としている(重要影響事態法,国際平和支援法)。加えて,「存立危機事態」における自衛隊の武力行使,「重要影響事態」における自衛隊の他国軍隊への支援,国連平和維持活動における「停戦監視業務」及び「安全確保業務」については,国会による事後承認の例外も設けられている。
内閣が提出したこの安全保障に関連する法案は,憲法第9条の制約を超え,海外での「武力の行使」を可能とするものであり,許されない。また,そもそもこれらの法案で使用される「存立危機事態」,「重要影響事態」,「国際平和共同対処事態」という概念は,法的概念として確立されておらず, これらの概念を認めることは,政府の恣意的な判断で自衛隊を海外へ出動させ,武力を行使させるおそれに繋がる。しかも,政府の判断の根拠となった事実や資料は,外交・防衛に関する事項として特定秘密保護法により秘匿されるおそれもあり,そうなれば,国会審議に十分な情報が提供されず,政府の判断の正当性を検証することすら不可能となる。
4 先の大戦は,日本国内外で多くの戦争被害を生んだ。とりわけ広島は,原爆投下により,数え切れない市民が犠牲となった。このような悲劇は二度と繰り返されてはならないとの反省のもと,日本国憲法は,前文と第9条で,徹底した恒久平和主義を規定した。しかし,政府が提出した安全保障法制に関する法案は,憲法第9条に違反するほか,憲法改正手続きを経ることなく憲法を実質的に変えようとするものであり,立憲主義,国民主権の基本原則に反するものであるから,到底許されない。
よって,当会は,上記閣議決定に基づいて政府が提出した安全保障法制に関する法案に強く反対する。

以上