声明・決議・意見書

意見書2009.01.14

中央教育審議会法科大学院に関する「中間まとめ」に対する意見書

第1 「中間まとめ」概要と問題点
1. 概要
中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会は,2008(平成20)年9月30日,法科大学院における教育の実施方法や法科大学院修了者の一部において認められる問題点を踏まえて,法科大学院における教育の質の一層の向上を図るため,「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(中間まとめ)」を公表した(以下「中間まとめ」という。)。
この「中間まとめ」は,法科大学院教育の改善の具体策として,概ね以下のような提言を行っている。
(1) 法科大学院の定員削減
「特に一定程度の志願者数の確保が困難である法科大学院については,質の高い入学者を確保するため,入学定員の見直しなど,競争的な環境を整える必要がある。」(「中間まとめ」第1の1【改善の方向性】(3))
(2) 法科大学院の教育課程の統合等
「特に小規模の法科大学院や地方の法科大学院において,今後単独では,質の高い教員が十分確保できず,充実した法律科目や幅広い先端・展開科目の提供が困難となるなど,教育水準の継続的・安定的な保証について懸念が生じている場合には,他の法科大学院との間で教育課程の共同実施・統合等を図ることを積極的に検討する必要がある。」(「中間まとめ」第3の2【改善の方向性】(3))
2. 問題点
当会は,司法制度改革の中で,地域司法を充実し弁護士偏在の問題を解消しながら,法曹の質を維持してゆく方策について,法曹の質の維持のためには,法曹教育の充実を欠かすことはできないと考えている。とりわけ,法科大学院における教育は,その基盤をなすものであり,そのために当会は,広島県内に設立されている2校の法科大学院に対して,当会の会員を実務家教員として積極的に推薦しているほか,非常勤講師の推薦,エクスターンシップやリーガルクリニックなど様々な支援を行っている。
このような当会の立場からすると,「中間まとめ」には,後述するとおり,その内容に強い疑義を抱かざるを得ない。

第2 法科大学院における定員削減・統合について
1.  地方の法科大学院の定員削減・統合については,大都市圏の場合と異なる観点からの配慮が必要である。
それは,法科大学院において,質の高い教員の確保,教育設備の維持などのためには,一定の定員数が確保されなければならないところ,地方の法科大学院の定員数はもともと少ない現状にあり,また,質が高く充実した教員の確保のためにも,地理的なハンディキャップがあるからである。
2.  こうした現状にある地方の法科大学院の定員を削減することは,地方の小規模校を狙い撃ちにした地方切り捨ての方策と考えざるを得ない。
むしろ,弁護士偏在の解消のためには,地方の法科大学院にある程度まとまった定員数を確保し,その地域に根ざした法曹の養成を行うべきである。現に,これまでに広島県内の2校を卒業し司法修習を終えた法科大学院生15名のうち,実に12名が広島や山口など中国地方の弁護士会に弁護士登録している。
従って,地方における法科大学院の定員削減は,弁護士偏在を助長する危険性が極めて高く,「中間まとめ」が地方の法科大学院に対して定員削減を示唆することは司法制度改革の流れに逆行するものである。
3.  また,「中間まとめ」が言う『教育課程の共同実施や統合』が,地方における法科大学院の統廃合につながるものだとすれば,これもまた非常に問題が大きいと言わざるを得ない。
たとえば,地方の複数の法科大学院同士の統合,特に都道府県をまたいだ統合は,地方に在住する法科大学院生のみならず,法科大学院への入学を希望する者に与える物理的・経済的負担が大きく,利便性を削ぎ,充実した教育の実施を損ねる結果を招くに止まらず,これらの者から法科大学院において教育を受ける機会を奪うこととなりかねない。

第3 結論
司法制度改革の趣旨からすれば,特に地方の法科大学院に対しては,入学志願者数及び司法試験合格率という数字上の結果のみを基準として,定員削減や統廃合が強要されることがあってはならない。大学の自治の観点からも,定員数の増減や統廃合については各法科大学院の自主的な判断に任せるべきである。
そして,地方の法科大学院が大学院生に対して充実した教育を提供できるようにするため,教員の適正配置などの積極的な措置を講ずるべきである。

以上