声明・決議・意見書

意見書2014.06.13

情報監視審査会の設置に関する国会法等改正法案及び秘密保護法の廃止についての意見書

広島弁護士会
会長 舩木孝和

第1 意見の趣旨
国会法等改正法案において衆参両議院に設置することとされる情報監視審査会は,行政が行う秘密指定の適正性を監視する機能を果たせず,その他の必要な施策も取られていないことから,知る権利や国民主権を侵害する特定秘密保護法の問題点はまったく解消されない。
よって,当会は,憲法の基本原理に矛盾抵触する特定秘密保護法の廃止を強く求めるものである。

第2 意見の理由
1 知る権利を守るために必要な監視体制
(1) 特定秘密保護法は,プライバシー権や公平公正な裁判を受ける権利の侵害など,憲法上数多くの問題点を抱えているが,その一つが,行政機関が「不都合な真実」を恣意的に秘密にすることで生じる知る権利の侵害である。
知る権利は,国民主権と民主主義の根幹であり,不当な侵害が生じないよう最大限保障されなければならない。監視機関及び国会が秘密指定の適正性をチェックし,知る権利を守るためには,監視機関に相応の権限と組織性を付与するなど,少なくとも以下の各事項をみたす必要がある。
① 監視機関は,情報の機密性のレベルにかかわらず,監視に必要なすべての情報にアクセスできる権限を有すること
② 行政機関は,監視機関が求めた情報を開示する義務を負うこと
③ 監視機関には,実効的に監視を行うために必要な財政,技術,人員体制が整っていること
④ 監視機関は,定期的に報告書を作成し,これを公開すること
⑤ 国会は,行政機関が秘匿の権利を主張した場合であっても,必要と判断した場合には,すべての情報を公開する権限を有すること
(2) 上記の各事項は,南アフリカ共和国の都市・ツワネで公表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という)において提言されたものである。ツワネ原則は,安全保障上の理由で情報を秘匿化する法律に対する指針として,70カ国以上500人を超える専門家が協議して取りまとめたものであり,わが国の特定秘密保護法にも当てはまるものである。
しかしながら,国会法等改正法案(平成26年5月30日衆議院提出)で示された情報監視審査会は,下記のとおり,上記の各事項を一つとして満たしておらず,監視の機能を果たすことができない。
2 情報監視審査会の問題点
(1) 調査に制限があること
監視機関が行政機関に調査を求めても,行政機関がこれを拒絶できるのであれば,監視としての機能はほとんど発揮されない。すべての情報にアクセスできる権限を監視機関に付与することと,監視機関への情報提供を行政機関に義務付けることは,監視を行うための大前提である。
しかしながら,特定秘密保護法10条1項及び国会法等改正法案では,行政機関が安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがあると判断し,内閣がその旨の声明を発しさえすれば,情報監視審査会への情報提供を拒絶することが可能になっている。「安全保障に関する情報のうち特に秘匿が必要であること」は秘密指定の要件の一つであり(特定秘密保護法1条),情報監視審査会がこの点を調査できないのであれば,およそ監視機能を果たすことはできない。監視ができないにもかかわらず,「監視」という名称を付した組織を設置して,市民に誤解を与えることは,有害無益と言わざるを得ない。
(2) 委員数が8名に過ぎないこと
監視機関が,40万件を超えると見込まれる秘密情報を特定して入手し,分析を行うには,それに見合う財政,技術,人員が伴った組織でなければならない。
ところが,情報監視審査会の委員数はわずか8名とされており,実効的な監視を行う体制にないことは明らかである。しかも,情報監視審査会の委員は,会派の議員数に比例させることとされているため,議員数の少ない野党からは委員が選出されず,多様な検討や議論を行うことも期待できない。
また,特定秘密保護法では,公務員以外の者を処罰しない旨の規定や,不正な秘密指定を告発する内部通報者を保護する制度が存在しないため,情報監視審査会には,第三者からの通報を受け付ける手続が用意されておらず,報道機関や内部告発者からの情報を端緒とした調査を行うことは極めて困難である。このため,国政上問題となった事項が偶然に特定秘密であったような場合を除けば,情報監視審査会が主体となって積極的に調査・監視を行うことはまったく期待できない。
(3) 監視機関自体の透明性が確保されていないこと
知る権利を守るためには,監視機関の監視自体が適正に行われているかをチェックする必要があり,監視機関は,その活動状況のほか,監視機関の責務,人員,実績等を定期的に公に報告しなければならないが,国会法等改正法案では,特定秘密保護法10条1項一号イの適用により情報監視審査会は秘密会とされるため,その審議内容は非公開となっており,報告書の作成や公開等はそもそも想定されていない。
(4) 秘密指定を解除し,公開する権限がないこと
国民主権,民主主義を採用するわが国においては,国民代表の集合体である国会が国権の最高機関であり(憲法41条),国家が扱う情報は最終的には国民共有の財産である。したがって,行政機関が安全保障を理由に秘匿の権利を主張した場合であっても,国会又は国会内の監視機関には,その判断で当該情報を公開できる権限が付与されていなければならない。
ところが,国会法等改正法案では,国会にも,情報監視審査会にも,特定秘密とされた情報を公開する権限はなく,強制的に秘密指定を解除する権限もない。情報監視審査会は,強制力のない改善勧告を行うことができるのみである。情報監視審査会が不当と判断しても,最終的には行政機関の判断で秘密化を維持できることとなり,監視による知る権利の尊重という目的を達成することができない。
3 監視機関設置以外の施策の必要性
(1)   国会法等改正法案が示す情報監視審査会の監視機能は,上記のとおり,極めて不十分であるが,知る権利を最大限保障するためには,仮に十分な監視機能を持った監視機関を設立したとしても,それで事足りるというものではない。たとえば,ツワネ原則においては,監視機関の設置以外にも,以下の事項を法律で明記するよう提示している。
① 具体的かつ実質的な根拠を示して秘密指定の正当性を明らかにする義務が行政機関にあること
② 公開が望ましいと強く推定される事項をあらかじめ明確にすること
③ 無期限に機密扱いにしてもよい情報はなく,最大期限を定めること
④ 秘密解除を請求するための手続を明確に定めること
⑤ 刑事裁判においては,公正な裁判を確実に行うため,秘密扱いの情報も開示すること
⑥ 不正な行為を告発する内部通報者は法的責任を負わず,報復的な人事等も禁止されること
⑦ 秘密情報を取り扱う公務員が,市民に情報へのアクセスをさせない意図を持って,故意に情報を廃棄した場合は処罰されること
⑧ 公務員以外の者は,秘密情報の入手,公開,働きかけ等を理由に処罰されてはならず,情報源の開示を強制されないこと
(2) 安全保障上,一定期間,秘匿が必要な情報が存在することは否定しないが,知る権利への不当な侵害を回避し,安全保障と知る権利の両立を図るためには,最低限,上記の各事項を法律で明確に定めなければならない。
昨年成立した特定秘密保護法は,上記事項のすべてを満たしておらず,安全保障に過度に重きをおいたアンバランスな法律である。知る権利に対する侵害は深刻であり,適性評価によるプライバシー権の侵害等も許されるものではない。
特定秘密保護法は抜本的な見直しが必要であり,一部の修正によって対応することができない以上,廃止とするほか道はない。まずは,情報公開法や公文書管理法等の改正により不十分な情報公開制度の改善を進め,その上で,秘密保全のあり方について,法律を制定する必要性があるのかどうかも含め,ツワネ原則を踏まえて,一から議論を行う必要がある。

第3 結論
以上のとおり,当会は,国会法等改正法案で示された情報監視審査会の監視機能が極めて不十分であり,その根本的な理由が憲法の基本原理に矛盾抵触する特定秘密保護法にあることを指摘し,同法の廃止を強く求めるものである。

以上