意見書2014.08.22
「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準(仮称)(案)」に対する意見書(後半)
第5 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」に対する意見
1 「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」について
(1) 「(1) プライバシーの保護」について
【意 見】
適性評価は評価対象者のプライバシーに関わるものだけではない。その家族同居人についてもプライバシーに関わる。そのため,対象者だけではなく,家族同居人のプライバシーにも配慮すべく,後述するように,適正評価の実施に当たっては,家族同居人の同意も得るべきである。
(2) 「(2) 調査事項以外の調査の禁止」について
【意 見】
「適法な」は削除すべきである。また,信教の自由を侵してはならないとの原則を加えるべきである。そして,この禁止事項に違反した調査を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理 由】
運用基準案は,プライバシーの保護への十分な配慮を掲げ,評価対象者の思想信条並びに適法な政治活動及び労働組合の活動についての調査を厳に慎むとする。
「適法な」政治活動,労働組合活動であるか否かは,政府や行政機関が判断することになるであろうが,政治活動や労働組合活動として,特定秘密に接近する活動を行うことはありうるものであり,それは国民主権をかかげる我が国においては当然の権利である。その際,特定秘密保護法を運用する立場からは「適法ではない」活動と恣意的に判断することになりかねない。また,警察庁や自衛隊情報保全隊はイスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかとなっている。このような調査活動は信教の自由を侵害することは明らかである。
思想信条,信教の自由,政治活動の自由,労働組合活動の自由は,憲法で保障された国民の基本的人権であるから,これを侵害するような調査活動は違法である。単に運用基準で禁止するとしても,それに対するペナルティーがなければ単なる訓示規定に過ぎない。運用基準案「Ⅴ4(3)通報者の保護」では,「当該職員に対し,懲戒処分その他適切な措置を講じるものとする。」と記述しているのであるから,この禁止事項に違反した場合にも,同様の懲戒処分その他適切な措置を講じることが可能であるし,すべきである。
(3) 「(3) 適性評価の結果の目的外利用の禁止」について
【意 見】
目的外利用禁止は当然のことであるが,この禁止事項を実行あらしめるため,禁止事項に違反した職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理 由】
特定秘密保護法第16条は,適性評価に関する個人情報の目的外利用を禁止している。行政機関個人情報保護法第8条第2項は,一定の範囲での目的外利用が許容されているところ,適性評価実施により取得される個人情報は,この例外として特定秘密保護法以外の目的での利用・提供が禁止されるものである。
評価対象者に対する7項目の調査事項及びその家族同居人らに対する調査事項は,それらの者にとってきわめて機微に属する情報である。これらの情報を目的外に使用されることがあっては,適性評価制度の信頼性が根底から崩されるであろう。適性評価制度が適正に運用されるためには,目的外利用の禁止に違反する職員に対しては,厳しい措置が必要である。
2 「4 適性評価の実施についての告知と同意」について
(1) 「(1) 評価対象者に対する告知」について
【意 見】
別添1告知書中「2 適性評価で調査する事項」では,特定有害活動及びテロリズムに関する事項を,より具体的に記述すべきである。
また,別添告知書中「3 調査の方法」では,「知人その他の関係者」,「公務所又は公私の団体」を具体的に列挙して記述すべきである。
【理 由】
告知書は評価対象者が適性評価の実施に対して同意不同意を決める上で最も重要な書面である。特定秘密保護法第12条2項1号から7号の調査事項の内,2号から7号についてはそれなりに具体的な記述となっている。ところが,1号の特定有害活動及びテロリズムに関する事項については,ほぼ法文通りの記述に過ぎず,何ら具体性がない。これでは同意不同意を決める際に,評価対象者にとり適性評価の実施でどのようなことが調査されるのか判断がつかない。
また,調査の方法では,上司や同僚等と記述するだけで,「知人その他の関係者」が具体的にどの範囲の知人関係者なのか全く不明である。「公務所又は公私の団体」では,信用情報機関と医療機関しか記述がなく,それ以外にどのような機関団体なのか不明である。これでは評価対象者が同意不同意を決める際に判断がつかない。
調査実施の際に同意書を取り付けるのでそれで十分との反論もあるかもしれないが,後述するように,同意書自体が白紙委任に等しいものであるので,告知書の記述は具体的な内容にすべきである。そもそも,同意をしない場合には,事実上,当該組織での将来はないのであり,その不利益との比較考慮において,侵害されるプライバシーの範囲を明確に理解させるべきである。
(2) 「(2) 同意の手続」について
【意 見】
プライバシー権や思想信条の自由を侵害するおそれの高い適性評価のための調査においては,あらかじめ「適性評価の実施についての同意書」に「質問,資料提出」を求める知人その他の関係者につき,必要最小限度の範囲のものに限定して,対象となる知人その他の関係者を例示し,かつ,質問票にも「質問,資料提出」を求める「知人その他の関係者」記載欄を設けるべきである。その上で,実際に「質問,資料提出」を行う具体的な「知人その他の関係者」に対する「質問,資料提出」を行うことにつき,その都度,評価対象者の同意を書面で得るべきである。「公務所及び公私の団体」に対して照会して報告を求める場合,その都度,「公務所及び公私の団体」ごとに評価対象者の書面による同意を取り付けるべきである。
また,評価対象者の家族,同居人を調査するには,これらの者の事前の同意を書面で得るべきであることを運用基準案へ明記すべきである。
【理 由】
別添2-1及び2-2の同意書は適性評価の実施に先立ち予め評価対象者からとりつけるものである。
別添2-1「適性評価の実施についての同意書」に記載されている同意内容は,特定秘密保護法第12条第4項をそのまま記載したものであり,きわめて抽象的な同意内容となっている。評価対象者の「知人その他の関係者」へ質問をし,資料の提出を求めることへの同意といっても,どの範囲の知人その他の関係者なのか不明であり,評価対象者の人間関係全般に及びうるものとなっている。これは全くの白紙委任に等しいものであり,プライバシーや思想信条の自由を侵害するおそれの高い適性評価制度の運用において,評価対象者の真の同意を得て行われるものとは言えず,違法な調査といわざるを得ない。しかも調査票の調査事項では,対象者の外国人の知人を記載する項目はあるが,それ以外の知人の記載項目はない。評価対象者にとっては,対象者の人間関係全般にわたる調査が,対象者の知らない情報をもとになされるとの強い不安と懸念を抱かせるものとなっている。
別添2-2「公務所または公私の団体への照会等への同意書」に記載されている同意内容は,評価対象者の知人その他の関係者への質問と,これらの知人その他の関係者が質問へ回答することへの同意,国及び地方の行政機関,信用情報機関,医療機関その他の公務所及び公私の団体への照会と照会に対する報告をすることへの同意となっている。
「知人その他の関係者」については,上記の問題がある。「公務所及び公私の団体」の記載も包括的で,信用情報機関や医療機関を挙げてみても,別添2-2の同意書が包括的で白紙委任の同意となっていることには変わりがない。同意書に関する以上の問題は,同意書の記述内容だけではなく,同意書が適性評価の実施に先立ち予め作成されるということに起因している。
特定秘密保護法第12条第3項は,「あらかじめ,(中略)評価対象者に対して告知した上で,その同意を得て実施する」と,適性評価実施の前に告知と同意を得ることを想定している。しかしながら,「知人その他の関係者」,「公務所又は公私の団体」への調査・照会の都度,同意を得ることが法文上排除されているとは解されない。調査の都度同意を得るということに対して,適性評価制度の運用の効率化の視点から批判があるかもしれないが,問題の本質は適性評価実施における評価対象者の基本的人権の保障であるから,そのために適性評価制度の運用の効率化が一定程度制約を受けるにしても止むを得ないものと考える。
特定秘密保護法第12条では適性評価の実施に際し調査対象者への告知と同意は必要とされているが,配偶者,父母,子,兄弟姉妹並びのこれらの者以外の配偶者の父母及び子という広範な家族と同居人の同意は不要となっている。別添5の質問票によれば,評価対象者は家族,同居人について,氏名,生年月日,住所,国籍,帰化歴,帰化の場合元の国籍,通称名などを記載することになっている。評価対象者よりも限定された事項ではあるが,これ自体も広範な個人情報である。さらに調査票に記載されたこれらの情報につき,適性評価実施に際してさらに調査が行われることになる(特定秘密保護法第12条第4項)。
適性評価手続きが評価対象者の家族,同居人の同意もなく個人情報について調査を行うことは,これらの者のプライバシー権を侵害することは明らかである。これらの家族,同居人に対しても適性評価実施に際してはその都度同意を取り付けるべきである。特定秘密保護法はこれらの者から同意を取り付けることは要件にはしていないが,同意を取り付けることが排除されているとは解されない。評価対象者の家族,同居人の基本的人権を保障するためにも,これらの者に対する調査には同意書の提出を要件にすべきである。
(3) 「(3) 不同意の場合の措置」について
【意 見】
不同意書面は取り付けるべきではない。もし不同意書面を取り付けるのであれば,別添3「適性評価実施についての不同意書」第2項の記載は削除すべきである。不同意により特定秘密取扱業務に従事することができなくなることは当然であるが,それ以上に不同意者の職務関係に影響を及ぼすことは無い旨の記載をすべきである。
【理 由】
適性評価実施についての不同意の場合,別添3の不同意書を提出することとされている。不同意書の記載内容は,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストの配置転換となる等」があることが予告されている。「配置転換となる等」と不明確な処分が予告されており,不同意の結果どのような不利益処分がなされかもしれないとの強い不安感を与えて,事実上同意を強制するものである。
運用基準案は,「適性評価実施担当者は,(中略)『適性評価の実施についての不同意書』が提出されるなど」と記述し,不同意書以外の不同意の意思表示も想定している。同意書を作成した評価対象者以外の評価対象者は適性評価実施に同意しないとすればすむはずである。なぜ不同意書面を作成するのであろうか。おそらく様々な手段方法で,同意を求めたり不同意の理由を聞き出すためではないであろうか。
特定秘密保護法第16条は,評価対象者が同意しなかったことを含めて適性評価の実施に当たり取得した情報の目的外利用を禁止し,その例外として,公務員の懲戒,分限処分に関係する場合には,その限りにおいて目的外利用ができるとされている。そのため,不同意を明確にする意味があるとの理由が挙げられるかも知れない。しかしながら,不同意をしたからといって,それ自体が懲戒,分限処分の事情になるものではなく,そのように取り扱われることは許されない。評価対象者が真に自己の自由意思によって,同意・不同意の意思表示が可能となるよう,このことは明記すべきである。
3 「5 調査の実施」について
(1) 「(1) 評価対象者による質問票の記載と提出」について
【意 見】
運用基準案に,従前自衛隊内部で作成され運用されてきた身上明細書とそれに基づく身上調査は廃止することを明確にすべきである。
【理 由】
運用基準案では,適性評価の実施に当たり評価対象者に別添5の質問票の作成を義務づける。質問票では特に特定有害活動とテロリズムに関する事項が詳細である。
防衛秘密保護法制の下で自衛隊が独自に身上明細書による調査を行っていたことが明らかとなっているが,身上明細書と比較すると,質問票の質問事項はかなり限定されている点は評価できる。逆のそのことが,有効な質問内容になっているのか疑問も出てくる。特定有害活動,テロリズムにかかわる調査は,質問票では限界があると思われることから,「公務所及び公私の団体」への照会に依存することになるのではなかろうか。
防衛秘密保護を規定した自衛隊法第96条の2,第122条は廃止され,防衛秘密保護制度は特定秘密保護法に吸収される。これに伴い,自衛隊が行っていた身上明細書に基づく身上調査は廃止されると思われる。しかしながら,運用基準案が提案する質問票とは別に自衛隊内部で従前の身上明細書に代わる質問票も作られるのではないかと懸念される。
(2) 「(5) 公務所又は公私の団体に対する照会」について
【意 見】
公務所及び公私の団体への照会に対して,当該公務所,公私の団体は照会当時現に保有する情報のみに基づいて報告する旨を明確にすべきである。
公務所及び公私の団体に対する照会事項の書式を運用基準別添書式として定め,その書式へ不動文字で,照会時点において公私の団体が現に保有する情報のみに限り報告すること及び評価対象者の思想信条にわたる情報は記載してはならないことを示すべきである。
これに違反した記載を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記載すべきである。
【理 由】
公務所及び公私の団体への照会は,それらの機関,団体が現に保有している情報の提供にとどまるとの保証はない。テロリズムや特定有害活動へのかかわりの調査では,照会先として警備公安警察や公安調査庁,自衛隊情報保全隊などが考えられる。これらの機関が照会に対して報告するうえで,すでに保有している情報を名寄せし,それでも不十分と判断すれば,評価対象者の周辺調査を行う可能性がある。
特定秘密保護法第20条は,適性評価の実施に関し関係行政機関の協力義務を定める。運用基準案は,行政機関の長が他の行政機関の職員や適合事業者の従業者についての適性評価の調査を代行してはならないと記述している。しかしながら,適性評価にかかわり照会を受けた場合,それに対する報告をするうえで必要な調査することがこの運用基準案で禁止されているか曖昧である。照会事項によっては報告するうえでさらに調査を行うことは当然予想できるものである。運用基準案では7項目についてどのような照会事項にするかまでは規定していない。照会事項の記載によっては照会を受けた行政機関は保有する情報の提供にとどまらず,さらに調査を行うことが十分考えられる。どのような照会事項にするかは適性評価を実施する行政機関の裁量であろう。したがって,運用基準案でも照会を受けた関係行政機関が適性評価対象者の周辺調査を行うことは想定される。
このことは決して根拠のない憶測ではない。運用基準案「6 評価」の「(2) 評価の際に考慮する要素」において,適性評価を実施するに当たり,調査により判明した事実について6項目の要素を考慮するとしている。この中には「イ 対象行動等の背景及び理由」「対象行動等の頻度及び時期」「対象行動等に対する自発的な関与の程度」が挙げられている。これらの要素を判断するうえで,他の行政機関(警備公安警察や公安調査庁,自衛隊情報保全隊など)がすでに保有している情報だけでは不十分である場合が想定される。運用基準案は照会を受けて他の行政機関が照会事項に関して調査を行うことを想定しているのではなかろうか。
特定有害活動,テロリズムにかかわる調査であれば,思想信条の調査,信仰の調査となり,極めて違憲性の強い調査になるであろう。
運用基準案は,評価対象者の思想信条について調査することを現に慎むとしているが,これは訓示規定に過ぎず,これに反した職員に対するペナルティーはない。そのためこの運用基準案では評価対象者の思想信条について調査は行われないとの保証は何もない。評価対象者の思想信条の調査の禁止は,実効あらしめるための措置が必要である。
4 「6 評価」について
(1) 「(1) 評価の基本的な考え方」について
【意 見】
特定秘密漏えいを防ぐためであれば,視点として必要なものはアないしウである。その他の視点は一般的な人事評価の視点であり,適性評価の視点とすれば必要はない。
【理 由】
運用基準案は評価の視点として以下の7項目を挙げる。
ア 情報を漏らすような活動にかかわることがないか
イ 情報を漏らすよう働きかけを受けた場合に,これに応じるおそれが高い状態にないか
ウ 情報を適正に管理することができるか
エ 規範を遵守して行動することができるか
オ 自己を律して行動することができるか
カ 職務の遂行に必要な注意力を有しているか
キ 職務に対し,誠実に取り組むことができるか
これらの視点は,漏えい防止の観点からは直接的あるいは間接的に関わる視点なのかもしれない。他方でこの視点は,行政機関の側から評価すれば組織に忠実である職員か否かを判断する視点にもなる。特に,エからキについては,およそ社会人としてふさわしいかどうかという評価事項でもあり,それはとりもなおさず,内部通報などして組織を乱すことをしない人物という評価にもなる。適性評価の実施の過程で,正義感が強く,所属する職場で孤立しても誤りを正す行動をとる可能性のある人物を特定秘密取扱者から排除することにつながりかねないため,エからキは不要である。
5 「7 結果等の通知」について
(1) 「(1) 評価対象者への結果及び理由の通知」について
【意 見】
理由の通知については,秘密保護法第12条第2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく特定秘密を漏らすおそれがないと認めた認められない具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。
【理 由】
イにおいて,「行政機関の長が評価対象者について特定秘密を漏らすおそれがないと認められないと評価したときは,当該評価対象者に対し,別添9-1の『適正評価結果等通知書(本人用)』により,その結果及び当該おそれがないと認められなかった理由を通知するものとする」としている。
また,ウでは,「理由の通知に当たっては,その理由が本人の申告に基づく事実によるものであるときには当該事実を示す等,具体的にこれを行うものとする。ただし,評価対象者以外の者の個人情報の保護を図るとともに,理由の通知によって,調査の着眼点,情報源,手法等が明らかとなり,適性評価の円滑な実施の確保を妨げることとなる場合には,これが明らかとならないようにしなければならない」としている。
この点,別添9-1からは,一般的に極めて簡単な理由のみが記載されることが想定されていると思われる。適性評価の結果が,事実上,その後の人事において大きな影響を与えうること,及び苦情の申出を実効あらしめるために,本人の申告に基づく事実によらない理由も含め,秘密保護法第12条第2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく,特定秘密を漏らすおそれがないと認めた具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。
なお,ウでは,具体的な理由の説明により,適性評価制度の調査の着眼点等を明らかにすることとなり,適性評価の円滑な実施を妨げることになるとしている。しかし,評価項目自体は明らかとなっているのであるから,評価基準が明らかになることにより,円滑な実施が妨げられるとは思われない。
6 「8 苦情の申出とその処理」について
(1) 「(1) 苦情の処理のための体制」について
【意 見】
情報提供をした職員を苦情処理の担当とすべきではない。当該行政機関外の者を苦情処理担当者に加えるべきである。
【理 由】
イにおいて,「苦情の申出があったときは,苦情処理責任者は速やかに当該苦情の概要を行政機関の長に報告するとともに,苦情処理担当者を指定する。この場合において,苦情処理責任者は,苦情を申し出た者に係る適性評価のための調査に直接従事した職員を苦情処理担当者に指定しないものとする」とされている。
ここで,「苦情を申し出た者に係る適性評価のための調査に直接従事した職員を苦情処理担当者に指定しない」のは当然であろう。さらに,情報提供をした職員も,虚心坦懐に苦情処理をなし得ないと考えられる。よって,情報提供をした職員も担当者に指定すべきではない。
また,同じ組織の者が苦情処理責任者となった場合,調査担当者等への遠慮から独立的な苦情処理をなし得ない可能性もある。よって,当該行政機関外の者を苦情処理担当者に加えるとの配慮が必要である。
(2) 「(3) 苦情の処理の手続」について
【意 見】
苦情処理の手続きにおいて,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会を保障すべきである。
【理 由】
イでは,「苦情処理担当者は,必要に応じ,苦情申出者,適性評価実施担当者その他必要と認める者に質問し,又は,苦情申出者若しくは適性評価実施担当者に資料の提出を求めることができる」としている。そこには,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会の保障は明記されていない。事実認定の正確性及び苦情申出者の納得を得るためには,意見陳述・資料提出の機会を保障すべきことを記載すべきである。
(3) 「(4) 苦情処理結果の通知」について
【意 見】
苦情処理結果の通知においては,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを記載すべきである。
【理 由】
アでは,「苦情処理担当者は,(3)ウに掲げる行政機関の長の承認を得た後,苦情申出者に対し,別添11の『苦情処理結果通知書』により,苦情についての処理の結果を通知する」としている。
そして,別添11を見ても,どのような内容を記載するのか明らかではない。
この点,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを記載すべきである。そうしないと,到底苦情申し出を行った者の納得は得られない。
7 「12 適性評価の実施に関する関係行政機関の協力」について
【意 見】
関係行政機関に照会し得る事項を明確に定めるべきである。
【理 由】
「行政機関の長は,他の行政機関の職員及び他の行政機関が契約する適合事業者の従業者についての適性評価の調査を代行してはならない」とされている。
これ自体は妥当であるが,評価対象者について広範な照会を行うことにより,事実上調査の代行を行う懸念もある。
そこで,運用基準において,照会し得る事項について明確に定めるべきである。
8 その他問題点について
さらに運用基準案において定める評価基準には以下のとおりの大きな問題点がある。
(1)評価対象者の範囲について
いわゆる行政機関の職員及び任用予定の者(国家公務員、地方公務員)のほかに、「契約による適合事業者の従業員(派遣も含む)及び予定者」も対象者となることから、これまでの公務員法違反で律せられていた者だけに止まらない、広範な範囲の一般市民が「評価対象」となる。
その対象者の選定は、当該行政機関の長の判断にほぼ全面的に委ねられている(運用基準素案では、名簿の作成と承認という手続きは書いてあるが、無限定的な特定秘密の取扱者も、無限定というか、どこまで名簿搭載されるかの外延は極めて曖昧である。
名簿搭載の範囲を広げれば、評価対象となる当該行政機関や適合事業者の従業員の範囲も広がり、多くの職員や従業員らが、後述の調査の同意、不同意という二者択一の選択を余儀なくされ、また、「質問票」により、プライバシーの侵害を受けざるを得ない得ない状況に追い込まれる危険性がある。
(2)「5年以内でも、秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」について
運用基準・素案では、「5年以内でも、秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」に該当するか否かの判断事情として具体的に以下のような事情を列記しているが、一度、評価対象になり、特定秘密を漏らす危険がないと評価された者は、その後少なくとも5年の間は、公的な場面だけでなく、私的な生活の場面も含め、監視あるいは自主申告により、本来知られたくない事情も含めあらゆる状況を職場や国に知られる状況に陥る。
下記の列記事項は、各事項でも、個々の事情の程度に余りにも差異があるうえ、「特定秘密を漏らすおそれがないと認めることに疑義が生じたこと」とどのような場合もチェックの対象となりうる規定となっており、国家によるプライバシ―の侵害、個人の尊厳を踏みにじる内容である。
記
「秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」について
・ 外国籍の者と結婚した場合その他外国との関係に大きな変化があったこと
・罪を犯して検挙されたこと
・懲戒処分の対象となる行為をしたこと
・情報の取扱いに関する規則に違反したこと
・違法な薬物の所持、使用等薬物の違法又は不適切な取扱いを行ったこと
・自己の行為の是非を判別し、若しくはその判別に従って行動する能力を失わせ、又は著しく低下させる症状を呈していると疑われる状況の陥ったこと
・飲酒により、けんか等の対人トラブルを引き起こしたり、業務上の支障を生じさせたりしたこと
・裁判所から給与の差押命令が送達されるなど経済的な問題を抱えていると疑われる状況に陥ったこと
・特定秘密を漏らすおそれがないと認めることに疑義が生じたこと
(3)適性評価の調査事項について
運用基準・素案にある対象者本人に対する「質問票」の内容は、余りにも網羅的であり、あからさまなプライバシーの侵害であり、プライバシー権の根拠とされる憲法13条に違反する内容である。
特に、特定秘密の無限定性、秘密の程度を問わない一律性(通常、取り扱う秘密の程度に応じて、プライバシーの放棄の程度は段階的に違うのではないか、比例の原則があるはずではないか)は無視できない問題である。
運用基準・素案で、対象者本人に対する「質問票」の内容は、
・生年月日、国籍、帰化歴、中卒後の職歴、離職理由、高校後の学歴
・外国の利益のための活動(金や場所の提供)の有無
・テロリズムのための活動(金や場所の提供)の有無
・それらの団体のメンバーだったか否か、現在はメンバーであるか否か。
・繰り返し会ったり連絡している外国機関の人がいるか
・来日外国人の身元保証、住居の提供の有無
・外国人から経済的な援助、便宜、飲食接待の有無
・外国人から助言・協力、顧問就任依頼、転職や仕事の誘いがあるか否か。
・外国所在の金融機関口座の有無
・外国に不動産の保有の有無
・外国政府機関から、教育、医療、社会保障、奨学金等の給付の有無
・外国政府発行の旅券の所持の有無
・海外へ渡航、居住の有無
・対象の家族について
・家族の範囲
父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子
・生年月日、住所、国籍、帰化歴、
・同居人について
生年月日、住所、国籍、帰化歴
という極めて広範で、保護されるべき重要なプライバシーが多々含まれており、このような質問を事実上強制することは、憲法13条違反であると考えられる。
さらに、以下のような、個人の心身、経済等に係る重要な事柄を無限定に質問し、調査し、関係団体に照会できるとするのは、より憲法13条違反の疑いを濃くするものである。
*犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
・有罪判決の有無
・職業上の懲戒の有無
*情報の取扱にかかる非違の経歴に関する事項
・無断の情報複写、記録媒体への保存、インターネットへ職務事項の公表等で、上司から指導監督上の措置を受けたか否か
*薬物の濫用及び影響に関する事項
・禁止薬物の所持や使用の有無
・疾病の治療でもらった薬物の過剰使用等の有無
・薬物依存症の有無
*精神疾患に関する事項
・精神疾患に関して、治療、カンンセリングの有無
*飲酒についての節度に関する事項
・飲酒が原因による、けんか等のトラブル、業務上の支障の有無
・アルコール依存症の有無
*信用状態その他経済的な状況に関する事項
・住宅、車、消費財の購入、教育以外の目的での借入の有無
・国税、保険料、家賃等の滞納の有無
・自己破産の有無
・ブラックリストに載ったか否か
・民事執行を受けたことの有無
・賃金や資産の差押えの有無
第6 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」に対する意見
1 「1 内閣官房及び内閣府の任務並びにその他の行政機関の協力」について
【意 見】
設置が予定されている内閣保全監視委員会は,内閣の一附属機関でしかなく,より独立性を持った厳格な監視の仕組みを作るべきである。
【理 由】
内閣官房は特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適性を確保するための事務を行い,上記事務の公正かつ能率的な遂行を図るため内閣の下に内閣保全監視委員会を置くものとしている。また,内閣府は内閣官房とは別の立場からいずれの行政機関にも偏ることなく,特定秘密の指定及びその解除並びに行政文書ファイル等の管理の適正の確保に関する事務を行うものとしている。
これらは,内閣又は内閣府内部において,特定秘密の指定・解除,適性評価の実施,特定秘密行政文書ファイルの管理の適正を自律的に図ろうとするものとされている。
しかし,内閣官房,内閣府はもちろんのこと,内閣保全監視委員会もあくまで閣議決定で設置される内閣の附属機関に過ぎないことから,このままでは,厳格な監視は期待できない。独立性を持った厳格な監視の仕組みの策定が不可欠である。
2 「2 内閣総理大臣による指揮監督」について
【意 見】
内閣総理大臣による行政機関の長への資料提出又は説明の求め及び是正の求めに強制力を与えて実効性を高めるべきである。
【理 由】
内閣保全監視委員会は,内閣総理大臣が特定秘密保護法第18条第4項に基づいて,特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するために,行政各部を指揮監督するに当たり,行政機関の長に特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,必要があれば是正を求めることができるとしている。
しかし,行政機関の長が資料の提出や説明,さらには是正の求めに応じない場合,運用基準案には,それに備えた適正確保のための方策が規定されていない。適正確保のためには,内閣総理大臣の要求に強制力を付与すべきである。
3 「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」について
(1) 「(1) 内閣府独立公文書管理監による検証・監察・是正」について
【意 見】
内閣府独立公文書管理監の選任母体となる情報保全監察室の構成メンバーの選出基準が不明確であるから,その選任基準を明確化するとともに,学者,弁護士その他外部の有識者を情報保全監察室に入れる他,行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して,独立性を可能な限り確保すべきである。
【理 由】
特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理が特定秘密保護法及び施行令の規定並びに運用基準に従っているか検証,監察するために内閣府の下に政令によって内閣府独立公文書管理監を置くものとしている。そして,内閣府には情報保全監察室を設置し,その室員の中から内閣府独立公文書管理監を指定するとしている。
そして,内閣府独立公文書管理監は,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行い,検証又は監察の結果,必要があれば特定秘密の指定の解除や特定行政文書ファイル等の適正な管理その他の是正を求めることができるとしている。
内閣府独立公文書管理監も特定秘密保護法第18条を受けて,いわゆる第三者的機関として設置されるものである。内閣保全監視委員会とは異なり,内閣府令に設置根拠が作られ,内閣府の下の機関となることによって,独立性を確保しようとしたものとされる。
しかし,その選任母体となる情報保全監察室の構成メンバーの選任基準が明確ではなく,防衛省,外務省,警察庁等の審議官レベルの人員で構成するともいわれている。特定秘密を取扱う行政機関の幹部を充てるということであれば,内閣保全監視委員会と同様に独立性のない機関とならざるを得ない。構成メンバーについては,その選任基準を明確にする必要がある。また,学者,弁護士その他外部の有識者を情報保全監察室に入れる他,行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して,組織上の独立性を可能な限り確保すべきである。
(2) 「(2) 行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等」について
【意 見】
内閣府独立公文書監理監は,行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等を求めることができるとしているが,監視機関として十分に機能するためには全ての特定秘密である情報を含む資料に対してのアクセス権を認め,是正に関する要求について強制力を与えるべきである。
【理 由】
先のとおり,内閣府独立公文書管理監は,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行うことができる。しかし,各行政機関の長はこれら求めを応じるべき義務はない。行政機関が資料の提出又は説明を拒む場合には,我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないことを疎明しなければならないとしているが,要求する疎明の程度次第では何らの歯止めにもならないし,さらには疎明なくして拒否した場合のペナルティーもない。知る権利と安全保障に関する国際基準を定めたツワネ原則は,要求される監視のための第三者機関には全ての情報に対するアクセス権を認めるべきとしている。内閣府独立公文書管理監に第三者機関としての機能を担わせるのであれば,行政機関の長に資料の提出又は説明の求めに対する拒否権を認めるべきではない。
また,検証又は監察の結果,必要があれば特定秘密の指定の解除や特定行政文書ファイル等の適正な管理その他の是正を求めることができるとしても,是正に応じなかった場合,運用基準案には,それに備えた適正確保のための方策が規定されていない。適正確保のためには,要求について強制力を付与することが不可欠である。
4 「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」について
【意 見】
通報先として内閣府独立公文書監理監又は行政機関の長の任意選択制とするとともに,国会(情報監視審査会)への通報も認めるべきである。
【理 由】
特定秘密取扱業務者は,特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイルなどの管理が特定秘密保護法等に従っておこわなれていないと思料する場合に,内閣府独立公文書管理監又は行政機関の長にその旨の通報を行い,調査を行った結果必要となれば是正を求めることができるとし,通報者については不利益取扱いをしないよう保護するとしている。
内部通報をきっかけとして特定秘密の指定及びその解除又は特定秘密行政文書ファイルの管理の適正化を図ろうとした点は評価できる。
しかし,まず,通報窓口については,内閣府独立公文書管理監と行政機関の長としているが,一次的には行政機関の長に通報することを求めており,内閣府独立公文書管理監への直接通報は例外とされている。自らが所属する行政機関の長に対しての内部通報は心情的に躊躇してしまいかねず,また,適正を欠くと思われる特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイル等の管理を行っている当該行政機関の長に通報しても,通報後に適切に処理されるか疑わしい部分もある。そのため,通報窓口として内閣府独立公文書管理監を用意した以上は,通報者の任意選択でいずれにも通報が可能とすべきである。
次に,先の国会法改正により情報監視審査会が衆参両議院に設置されることとなったことから,通報先として上記審査会も加えるべきである。さらに,通報対象となる特定秘密の指定及び解除又は特定行政文書ファイル等の管理の違法性については,特定秘密保護法に限定することなく,憲法,条約,ツワネ原則をはじめとした国際準則等に適合するかにより判断すべきである。
5 「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
【意 見】
国会への報告及び公表事項は,件数だけでなく,概要も併せた報告をすべきである。
【理 由】
行政機関の長は,毎年1回特定秘密の指定及びその解除又は適性評価に関する所定の事項を,内閣保全監視委員会,内閣府独立公文書管理監に報告するものとしている。また,国会に対しては内閣総理大臣が同様の報告をするものとしている。
定期的な報告を求めることで,各機関による適正確保のための職権発動を促そうとした趣旨と考えられるが,基本的に報告事項は件数報告であり,その内容については概要すら明らかにされるものではない。このような報告では,監視の実効性をあげることは困難である。報告は,単なる件数報告でなく概要も併せて行うべきである。
6 「6 その他の遵守すべき事項」について
【意 見】
監視機関の独立性が欠如していること及び監視方法として何ら強制力を伴わず実効性が欠如していることから,これらを確保すべきであるし,公益者通報制度も併せて整備すべきである。
【理 由】
(1) Vの運用基準は,特定秘密保護法第18条の規定を受けて,いわゆる第三者機関的なチェック機構をもうけることにより,過度の特定秘密の指定などが行われないように配慮しようとしたものと思われるが,極めて不十分なものとしか言い様がない。
(2) 独立性の欠如
内閣保全監視委員会も内閣府独立公文書管理監も,内閣又は内閣府から独立性をもった第三者機関ではない。構成メンバーの選任方法から外部有識者を積極的に導入するなどの必要がある。
(3) 実効性の欠如
内閣保全監視委員会も内閣府独立公文書管理監も,特定秘密の指定及びその解除等が適性に行われているか,調査する権限を有するが,各行政機関の長に報告などを求めても強制力をもって行うことができるわけではない。さらに,調査の結果,たとえは秘密指定すべきでない情報が秘密指定されているなど特定秘密の指定などが適切に行われていないことが明らかになったとしても,是正を勧告することができるに過ぎない。米国の同様の機関は,このような場合には秘密指定解除請求権を有していることなどと比べて著しく監督権限が弱い。
(4) 通報制度の不十分さ
通報制度については,内閣府独立公文書管理監又は行政機関の長だけでなく,国会への通報も可能にすべきである。また,通報にあたっては匿名でも可能にして,通報を容易にすべきである。
以上
第5 運用基準案「Ⅳ 適性評価の実施」に対する意見
1 「1 適性評価の実施に当たっての基本的な考え方」について
(1) 「(1) プライバシーの保護」について
【意 見】
適性評価は評価対象者のプライバシーに関わるものだけではない。その家族同居人についてもプライバシーに関わる。そのため,対象者だけではなく,家族同居人のプライバシーにも配慮すべく,後述するように,適正評価の実施に当たっては,家族同居人の同意も得るべきである。
(2) 「(2) 調査事項以外の調査の禁止」について
【意 見】
「適法な」は削除すべきである。また,信教の自由を侵してはならないとの原則を加えるべきである。そして,この禁止事項に違反した調査を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理 由】
運用基準案は,プライバシーの保護への十分な配慮を掲げ,評価対象者の思想信条並びに適法な政治活動及び労働組合の活動についての調査を厳に慎むとする。
「適法な」政治活動,労働組合活動であるか否かは,政府や行政機関が判断することになるであろうが,政治活動や労働組合活動として,特定秘密に接近する活動を行うことはありうるものであり,それは国民主権をかかげる我が国においては当然の権利である。その際,特定秘密保護法を運用する立場からは「適法ではない」活動と恣意的に判断することになりかねない。また,警察庁や自衛隊情報保全隊はイスラム教徒やその団体を「国際テロ容疑」で調査していたことが明らかとなっている。このような調査活動は信教の自由を侵害することは明らかである。
思想信条,信教の自由,政治活動の自由,労働組合活動の自由は,憲法で保障された国民の基本的人権であるから,これを侵害するような調査活動は違法である。単に運用基準で禁止するとしても,それに対するペナルティーがなければ単なる訓示規定に過ぎない。運用基準案「Ⅴ4(3)通報者の保護」では,「当該職員に対し,懲戒処分その他適切な措置を講じるものとする。」と記述しているのであるから,この禁止事項に違反した場合にも,同様の懲戒処分その他適切な措置を講じることが可能であるし,すべきである。
(3) 「(3) 適性評価の結果の目的外利用の禁止」について
【意 見】
目的外利用禁止は当然のことであるが,この禁止事項を実行あらしめるため,禁止事項に違反した職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記述すべきである。
【理 由】
特定秘密保護法第16条は,適性評価に関する個人情報の目的外利用を禁止している。行政機関個人情報保護法第8条第2項は,一定の範囲での目的外利用が許容されているところ,適性評価実施により取得される個人情報は,この例外として特定秘密保護法以外の目的での利用・提供が禁止されるものである。
評価対象者に対する7項目の調査事項及びその家族同居人らに対する調査事項は,それらの者にとってきわめて機微に属する情報である。これらの情報を目的外に使用されることがあっては,適性評価制度の信頼性が根底から崩されるであろう。適性評価制度が適正に運用されるためには,目的外利用の禁止に違反する職員に対しては,厳しい措置が必要である。
2 「4 適性評価の実施についての告知と同意」について
(1) 「(1) 評価対象者に対する告知」について
【意 見】
別添1告知書中「2 適性評価で調査する事項」では,特定有害活動及びテロリズムに関する事項を,より具体的に記述すべきである。
また,別添告知書中「3 調査の方法」では,「知人その他の関係者」,「公務所又は公私の団体」を具体的に列挙して記述すべきである。
【理 由】
告知書は評価対象者が適性評価の実施に対して同意不同意を決める上で最も重要な書面である。特定秘密保護法第12条2項1号から7号の調査事項の内,2号から7号についてはそれなりに具体的な記述となっている。ところが,1号の特定有害活動及びテロリズムに関する事項については,ほぼ法文通りの記述に過ぎず,何ら具体性がない。これでは同意不同意を決める際に,評価対象者にとり適性評価の実施でどのようなことが調査されるのか判断がつかない。
また,調査の方法では,上司や同僚等と記述するだけで,「知人その他の関係者」が具体的にどの範囲の知人関係者なのか全く不明である。「公務所又は公私の団体」では,信用情報機関と医療機関しか記述がなく,それ以外にどのような機関団体なのか不明である。これでは評価対象者が同意不同意を決める際に判断がつかない。
調査実施の際に同意書を取り付けるのでそれで十分との反論もあるかもしれないが,後述するように,同意書自体が白紙委任に等しいものであるので,告知書の記述は具体的な内容にすべきである。そもそも,同意をしない場合には,事実上,当該組織での将来はないのであり,その不利益との比較考慮において,侵害されるプライバシーの範囲を明確に理解させるべきである。
(2) 「(2) 同意の手続」について
【意 見】
プライバシー権や思想信条の自由を侵害するおそれの高い適性評価のための調査においては,あらかじめ「適性評価の実施についての同意書」に「質問,資料提出」を求める知人その他の関係者につき,必要最小限度の範囲のものに限定して,対象となる知人その他の関係者を例示し,かつ,質問票にも「質問,資料提出」を求める「知人その他の関係者」記載欄を設けるべきである。その上で,実際に「質問,資料提出」を行う具体的な「知人その他の関係者」に対する「質問,資料提出」を行うことにつき,その都度,評価対象者の同意を書面で得るべきである。「公務所及び公私の団体」に対して照会して報告を求める場合,その都度,「公務所及び公私の団体」ごとに評価対象者の書面による同意を取り付けるべきである。
また,評価対象者の家族,同居人を調査するには,これらの者の事前の同意を書面で得るべきであることを運用基準案へ明記すべきである。
【理 由】
別添2-1及び2-2の同意書は適性評価の実施に先立ち予め評価対象者からとりつけるものである。
別添2-1「適性評価の実施についての同意書」に記載されている同意内容は,特定秘密保護法第12条第4項をそのまま記載したものであり,きわめて抽象的な同意内容となっている。評価対象者の「知人その他の関係者」へ質問をし,資料の提出を求めることへの同意といっても,どの範囲の知人その他の関係者なのか不明であり,評価対象者の人間関係全般に及びうるものとなっている。これは全くの白紙委任に等しいものであり,プライバシーや思想信条の自由を侵害するおそれの高い適性評価制度の運用において,評価対象者の真の同意を得て行われるものとは言えず,違法な調査といわざるを得ない。しかも調査票の調査事項では,対象者の外国人の知人を記載する項目はあるが,それ以外の知人の記載項目はない。評価対象者にとっては,対象者の人間関係全般にわたる調査が,対象者の知らない情報をもとになされるとの強い不安と懸念を抱かせるものとなっている。
別添2-2「公務所または公私の団体への照会等への同意書」に記載されている同意内容は,評価対象者の知人その他の関係者への質問と,これらの知人その他の関係者が質問へ回答することへの同意,国及び地方の行政機関,信用情報機関,医療機関その他の公務所及び公私の団体への照会と照会に対する報告をすることへの同意となっている。
「知人その他の関係者」については,上記の問題がある。「公務所及び公私の団体」の記載も包括的で,信用情報機関や医療機関を挙げてみても,別添2-2の同意書が包括的で白紙委任の同意となっていることには変わりがない。同意書に関する以上の問題は,同意書の記述内容だけではなく,同意書が適性評価の実施に先立ち予め作成されるということに起因している。
特定秘密保護法第12条第3項は,「あらかじめ,(中略)評価対象者に対して告知した上で,その同意を得て実施する」と,適性評価実施の前に告知と同意を得ることを想定している。しかしながら,「知人その他の関係者」,「公務所又は公私の団体」への調査・照会の都度,同意を得ることが法文上排除されているとは解されない。調査の都度同意を得るということに対して,適性評価制度の運用の効率化の視点から批判があるかもしれないが,問題の本質は適性評価実施における評価対象者の基本的人権の保障であるから,そのために適性評価制度の運用の効率化が一定程度制約を受けるにしても止むを得ないものと考える。
特定秘密保護法第12条では適性評価の実施に際し調査対象者への告知と同意は必要とされているが,配偶者,父母,子,兄弟姉妹並びのこれらの者以外の配偶者の父母及び子という広範な家族と同居人の同意は不要となっている。別添5の質問票によれば,評価対象者は家族,同居人について,氏名,生年月日,住所,国籍,帰化歴,帰化の場合元の国籍,通称名などを記載することになっている。評価対象者よりも限定された事項ではあるが,これ自体も広範な個人情報である。さらに調査票に記載されたこれらの情報につき,適性評価実施に際してさらに調査が行われることになる(特定秘密保護法第12条第4項)。
適性評価手続きが評価対象者の家族,同居人の同意もなく個人情報について調査を行うことは,これらの者のプライバシー権を侵害することは明らかである。これらの家族,同居人に対しても適性評価実施に際してはその都度同意を取り付けるべきである。特定秘密保護法はこれらの者から同意を取り付けることは要件にはしていないが,同意を取り付けることが排除されているとは解されない。評価対象者の家族,同居人の基本的人権を保障するためにも,これらの者に対する調査には同意書の提出を要件にすべきである。
(3) 「(3) 不同意の場合の措置」について
【意 見】
不同意書面は取り付けるべきではない。もし不同意書面を取り付けるのであれば,別添3「適性評価実施についての不同意書」第2項の記載は削除すべきである。不同意により特定秘密取扱業務に従事することができなくなることは当然であるが,それ以上に不同意者の職務関係に影響を及ぼすことは無い旨の記載をすべきである。
【理 由】
適性評価実施についての不同意の場合,別添3の不同意書を提出することとされている。不同意書の記載内容は,不同意の結果「特定秘密の取り扱いの業務が予定されていないポストの配置転換となる等」があることが予告されている。「配置転換となる等」と不明確な処分が予告されており,不同意の結果どのような不利益処分がなされかもしれないとの強い不安感を与えて,事実上同意を強制するものである。
運用基準案は,「適性評価実施担当者は,(中略)『適性評価の実施についての不同意書』が提出されるなど」と記述し,不同意書以外の不同意の意思表示も想定している。同意書を作成した評価対象者以外の評価対象者は適性評価実施に同意しないとすればすむはずである。なぜ不同意書面を作成するのであろうか。おそらく様々な手段方法で,同意を求めたり不同意の理由を聞き出すためではないであろうか。
特定秘密保護法第16条は,評価対象者が同意しなかったことを含めて適性評価の実施に当たり取得した情報の目的外利用を禁止し,その例外として,公務員の懲戒,分限処分に関係する場合には,その限りにおいて目的外利用ができるとされている。そのため,不同意を明確にする意味があるとの理由が挙げられるかも知れない。しかしながら,不同意をしたからといって,それ自体が懲戒,分限処分の事情になるものではなく,そのように取り扱われることは許されない。評価対象者が真に自己の自由意思によって,同意・不同意の意思表示が可能となるよう,このことは明記すべきである。
3 「5 調査の実施」について
(1) 「(1) 評価対象者による質問票の記載と提出」について
【意 見】
運用基準案に,従前自衛隊内部で作成され運用されてきた身上明細書とそれに基づく身上調査は廃止することを明確にすべきである。
【理 由】
運用基準案では,適性評価の実施に当たり評価対象者に別添5の質問票の作成を義務づける。質問票では特に特定有害活動とテロリズムに関する事項が詳細である。
防衛秘密保護法制の下で自衛隊が独自に身上明細書による調査を行っていたことが明らかとなっているが,身上明細書と比較すると,質問票の質問事項はかなり限定されている点は評価できる。逆のそのことが,有効な質問内容になっているのか疑問も出てくる。特定有害活動,テロリズムにかかわる調査は,質問票では限界があると思われることから,「公務所及び公私の団体」への照会に依存することになるのではなかろうか。
防衛秘密保護を規定した自衛隊法第96条の2,第122条は廃止され,防衛秘密保護制度は特定秘密保護法に吸収される。これに伴い,自衛隊が行っていた身上明細書に基づく身上調査は廃止されると思われる。しかしながら,運用基準案が提案する質問票とは別に自衛隊内部で従前の身上明細書に代わる質問票も作られるのではないかと懸念される。
(2) 「(5) 公務所又は公私の団体に対する照会」について
【意 見】
公務所及び公私の団体への照会に対して,当該公務所,公私の団体は照会当時現に保有する情報のみに基づいて報告する旨を明確にすべきである。
公務所及び公私の団体に対する照会事項の書式を運用基準別添書式として定め,その書式へ不動文字で,照会時点において公私の団体が現に保有する情報のみに限り報告すること及び評価対象者の思想信条にわたる情報は記載してはならないことを示すべきである。
これに違反した記載を行った職員に対しては,懲戒処分その他適切な措置を講じるべきことを記載すべきである。
【理 由】
公務所及び公私の団体への照会は,それらの機関,団体が現に保有している情報の提供にとどまるとの保証はない。テロリズムや特定有害活動へのかかわりの調査では,照会先として警備公安警察や公安調査庁,自衛隊情報保全隊などが考えられる。これらの機関が照会に対して報告するうえで,すでに保有している情報を名寄せし,それでも不十分と判断すれば,評価対象者の周辺調査を行う可能性がある。
特定秘密保護法第20条は,適性評価の実施に関し関係行政機関の協力義務を定める。運用基準案は,行政機関の長が他の行政機関の職員や適合事業者の従業者についての適性評価の調査を代行してはならないと記述している。しかしながら,適性評価にかかわり照会を受けた場合,それに対する報告をするうえで必要な調査することがこの運用基準案で禁止されているか曖昧である。照会事項によっては報告するうえでさらに調査を行うことは当然予想できるものである。運用基準案では7項目についてどのような照会事項にするかまでは規定していない。照会事項の記載によっては照会を受けた行政機関は保有する情報の提供にとどまらず,さらに調査を行うことが十分考えられる。どのような照会事項にするかは適性評価を実施する行政機関の裁量であろう。したがって,運用基準案でも照会を受けた関係行政機関が適性評価対象者の周辺調査を行うことは想定される。
このことは決して根拠のない憶測ではない。運用基準案「6 評価」の「(2) 評価の際に考慮する要素」において,適性評価を実施するに当たり,調査により判明した事実について6項目の要素を考慮するとしている。この中には「イ 対象行動等の背景及び理由」「対象行動等の頻度及び時期」「対象行動等に対する自発的な関与の程度」が挙げられている。これらの要素を判断するうえで,他の行政機関(警備公安警察や公安調査庁,自衛隊情報保全隊など)がすでに保有している情報だけでは不十分である場合が想定される。運用基準案は照会を受けて他の行政機関が照会事項に関して調査を行うことを想定しているのではなかろうか。
特定有害活動,テロリズムにかかわる調査であれば,思想信条の調査,信仰の調査となり,極めて違憲性の強い調査になるであろう。
運用基準案は,評価対象者の思想信条について調査することを現に慎むとしているが,これは訓示規定に過ぎず,これに反した職員に対するペナルティーはない。そのためこの運用基準案では評価対象者の思想信条について調査は行われないとの保証は何もない。評価対象者の思想信条の調査の禁止は,実効あらしめるための措置が必要である。
4 「6 評価」について
(1) 「(1) 評価の基本的な考え方」について
【意 見】
特定秘密漏えいを防ぐためであれば,視点として必要なものはアないしウである。その他の視点は一般的な人事評価の視点であり,適性評価の視点とすれば必要はない。
【理 由】
運用基準案は評価の視点として以下の7項目を挙げる。
ア 情報を漏らすような活動にかかわることがないか
イ 情報を漏らすよう働きかけを受けた場合に,これに応じるおそれが高い状態にないか
ウ 情報を適正に管理することができるか
エ 規範を遵守して行動することができるか
オ 自己を律して行動することができるか
カ 職務の遂行に必要な注意力を有しているか
キ 職務に対し,誠実に取り組むことができるか
これらの視点は,漏えい防止の観点からは直接的あるいは間接的に関わる視点なのかもしれない。他方でこの視点は,行政機関の側から評価すれば組織に忠実である職員か否かを判断する視点にもなる。特に,エからキについては,およそ社会人としてふさわしいかどうかという評価事項でもあり,それはとりもなおさず,内部通報などして組織を乱すことをしない人物という評価にもなる。適性評価の実施の過程で,正義感が強く,所属する職場で孤立しても誤りを正す行動をとる可能性のある人物を特定秘密取扱者から排除することにつながりかねないため,エからキは不要である。
5 「7 結果等の通知」について
(1) 「(1) 評価対象者への結果及び理由の通知」について
【意 見】
理由の通知については,秘密保護法第12条第2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく特定秘密を漏らすおそれがないと認めた認められない具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。
【理 由】
イにおいて,「行政機関の長が評価対象者について特定秘密を漏らすおそれがないと認められないと評価したときは,当該評価対象者に対し,別添9-1の『適正評価結果等通知書(本人用)』により,その結果及び当該おそれがないと認められなかった理由を通知するものとする」としている。
また,ウでは,「理由の通知に当たっては,その理由が本人の申告に基づく事実によるものであるときには当該事実を示す等,具体的にこれを行うものとする。ただし,評価対象者以外の者の個人情報の保護を図るとともに,理由の通知によって,調査の着眼点,情報源,手法等が明らかとなり,適性評価の円滑な実施の確保を妨げることとなる場合には,これが明らかとならないようにしなければならない」としている。
この点,別添9-1からは,一般的に極めて簡単な理由のみが記載されることが想定されていると思われる。適性評価の結果が,事実上,その後の人事において大きな影響を与えうること,及び苦情の申出を実効あらしめるために,本人の申告に基づく事実によらない理由も含め,秘密保護法第12条第2項各号のどれに該当すると評価されたかだけではなく,特定秘密を漏らすおそれがないと認めた具体的事実及びその具体的事実を認定した資料についても記載すべきものである。
なお,ウでは,具体的な理由の説明により,適性評価制度の調査の着眼点等を明らかにすることとなり,適性評価の円滑な実施を妨げることになるとしている。しかし,評価項目自体は明らかとなっているのであるから,評価基準が明らかになることにより,円滑な実施が妨げられるとは思われない。
6 「8 苦情の申出とその処理」について
(1) 「(1) 苦情の処理のための体制」について
【意 見】
情報提供をした職員を苦情処理の担当とすべきではない。当該行政機関外の者を苦情処理担当者に加えるべきである。
【理 由】
イにおいて,「苦情の申出があったときは,苦情処理責任者は速やかに当該苦情の概要を行政機関の長に報告するとともに,苦情処理担当者を指定する。この場合において,苦情処理責任者は,苦情を申し出た者に係る適性評価のための調査に直接従事した職員を苦情処理担当者に指定しないものとする」とされている。
ここで,「苦情を申し出た者に係る適性評価のための調査に直接従事した職員を苦情処理担当者に指定しない」のは当然であろう。さらに,情報提供をした職員も,虚心坦懐に苦情処理をなし得ないと考えられる。よって,情報提供をした職員も担当者に指定すべきではない。
また,同じ組織の者が苦情処理責任者となった場合,調査担当者等への遠慮から独立的な苦情処理をなし得ない可能性もある。よって,当該行政機関外の者を苦情処理担当者に加えるとの配慮が必要である。
(2) 「(3) 苦情の処理の手続」について
【意 見】
苦情処理の手続きにおいて,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会を保障すべきである。
【理 由】
イでは,「苦情処理担当者は,必要に応じ,苦情申出者,適性評価実施担当者その他必要と認める者に質問し,又は,苦情申出者若しくは適性評価実施担当者に資料の提出を求めることができる」としている。そこには,苦情申出者に意見陳述・資料提出の機会の保障は明記されていない。事実認定の正確性及び苦情申出者の納得を得るためには,意見陳述・資料提出の機会を保障すべきことを記載すべきである。
(3) 「(4) 苦情処理結果の通知」について
【意 見】
苦情処理結果の通知においては,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを記載すべきである。
【理 由】
アでは,「苦情処理担当者は,(3)ウに掲げる行政機関の長の承認を得た後,苦情申出者に対し,別添11の『苦情処理結果通知書』により,苦情についての処理の結果を通知する」としている。
そして,別添11を見ても,どのような内容を記載するのか明らかではない。
この点,苦情申し出において指摘された主張を裏づける事実の有無,当該事実についての評価について具体的根拠を記載すべきことを記載すべきである。そうしないと,到底苦情申し出を行った者の納得は得られない。
7 「12 適性評価の実施に関する関係行政機関の協力」について
【意 見】
関係行政機関に照会し得る事項を明確に定めるべきである。
【理 由】
「行政機関の長は,他の行政機関の職員及び他の行政機関が契約する適合事業者の従業者についての適性評価の調査を代行してはならない」とされている。
これ自体は妥当であるが,評価対象者について広範な照会を行うことにより,事実上調査の代行を行う懸念もある。
そこで,運用基準において,照会し得る事項について明確に定めるべきである。
8 その他問題点について
さらに運用基準案において定める評価基準には以下のとおりの大きな問題点がある。
(1)評価対象者の範囲について
いわゆる行政機関の職員及び任用予定の者(国家公務員、地方公務員)のほかに、「契約による適合事業者の従業員(派遣も含む)及び予定者」も対象者となることから、これまでの公務員法違反で律せられていた者だけに止まらない、広範な範囲の一般市民が「評価対象」となる。
その対象者の選定は、当該行政機関の長の判断にほぼ全面的に委ねられている(運用基準素案では、名簿の作成と承認という手続きは書いてあるが、無限定的な特定秘密の取扱者も、無限定というか、どこまで名簿搭載されるかの外延は極めて曖昧である。
名簿搭載の範囲を広げれば、評価対象となる当該行政機関や適合事業者の従業員の範囲も広がり、多くの職員や従業員らが、後述の調査の同意、不同意という二者択一の選択を余儀なくされ、また、「質問票」により、プライバシーの侵害を受けざるを得ない得ない状況に追い込まれる危険性がある。
(2)「5年以内でも、秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」について
運用基準・素案では、「5年以内でも、秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」に該当するか否かの判断事情として具体的に以下のような事情を列記しているが、一度、評価対象になり、特定秘密を漏らす危険がないと評価された者は、その後少なくとも5年の間は、公的な場面だけでなく、私的な生活の場面も含め、監視あるいは自主申告により、本来知られたくない事情も含めあらゆる状況を職場や国に知られる状況に陥る。
下記の列記事項は、各事項でも、個々の事情の程度に余りにも差異があるうえ、「特定秘密を漏らすおそれがないと認めることに疑義が生じたこと」とどのような場合もチェックの対象となりうる規定となっており、国家によるプライバシ―の侵害、個人の尊厳を踏みにじる内容である。
記
「秘密を漏らす疑いを生じさせる事情がある者」について
・ 外国籍の者と結婚した場合その他外国との関係に大きな変化があったこと
・罪を犯して検挙されたこと
・懲戒処分の対象となる行為をしたこと
・情報の取扱いに関する規則に違反したこと
・違法な薬物の所持、使用等薬物の違法又は不適切な取扱いを行ったこと
・自己の行為の是非を判別し、若しくはその判別に従って行動する能力を失わせ、又は著しく低下させる症状を呈していると疑われる状況の陥ったこと
・飲酒により、けんか等の対人トラブルを引き起こしたり、業務上の支障を生じさせたりしたこと
・裁判所から給与の差押命令が送達されるなど経済的な問題を抱えていると疑われる状況に陥ったこと
・特定秘密を漏らすおそれがないと認めることに疑義が生じたこと
(3)適性評価の調査事項について
運用基準・素案にある対象者本人に対する「質問票」の内容は、余りにも網羅的であり、あからさまなプライバシーの侵害であり、プライバシー権の根拠とされる憲法13条に違反する内容である。
特に、特定秘密の無限定性、秘密の程度を問わない一律性(通常、取り扱う秘密の程度に応じて、プライバシーの放棄の程度は段階的に違うのではないか、比例の原則があるはずではないか)は無視できない問題である。
運用基準・素案で、対象者本人に対する「質問票」の内容は、
・生年月日、国籍、帰化歴、中卒後の職歴、離職理由、高校後の学歴
・外国の利益のための活動(金や場所の提供)の有無
・テロリズムのための活動(金や場所の提供)の有無
・それらの団体のメンバーだったか否か、現在はメンバーであるか否か。
・繰り返し会ったり連絡している外国機関の人がいるか
・来日外国人の身元保証、住居の提供の有無
・外国人から経済的な援助、便宜、飲食接待の有無
・外国人から助言・協力、顧問就任依頼、転職や仕事の誘いがあるか否か。
・外国所在の金融機関口座の有無
・外国に不動産の保有の有無
・外国政府機関から、教育、医療、社会保障、奨学金等の給付の有無
・外国政府発行の旅券の所持の有無
・海外へ渡航、居住の有無
・対象の家族について
・家族の範囲
父母、子、兄弟姉妹、配偶者の父母、子
・生年月日、住所、国籍、帰化歴、
・同居人について
生年月日、住所、国籍、帰化歴
という極めて広範で、保護されるべき重要なプライバシーが多々含まれており、このような質問を事実上強制することは、憲法13条違反であると考えられる。
さらに、以下のような、個人の心身、経済等に係る重要な事柄を無限定に質問し、調査し、関係団体に照会できるとするのは、より憲法13条違反の疑いを濃くするものである。
*犯罪及び懲戒の経歴に関する事項
・有罪判決の有無
・職業上の懲戒の有無
*情報の取扱にかかる非違の経歴に関する事項
・無断の情報複写、記録媒体への保存、インターネットへ職務事項の公表等で、上司から指導監督上の措置を受けたか否か
*薬物の濫用及び影響に関する事項
・禁止薬物の所持や使用の有無
・疾病の治療でもらった薬物の過剰使用等の有無
・薬物依存症の有無
*精神疾患に関する事項
・精神疾患に関して、治療、カンンセリングの有無
*飲酒についての節度に関する事項
・飲酒が原因による、けんか等のトラブル、業務上の支障の有無
・アルコール依存症の有無
*信用状態その他経済的な状況に関する事項
・住宅、車、消費財の購入、教育以外の目的での借入の有無
・国税、保険料、家賃等の滞納の有無
・自己破産の有無
・ブラックリストに載ったか否か
・民事執行を受けたことの有無
・賃金や資産の差押えの有無
第6 運用基準案「Ⅴ 特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するための措置等」に対する意見
1 「1 内閣官房及び内閣府の任務並びにその他の行政機関の協力」について
【意 見】
設置が予定されている内閣保全監視委員会は,内閣の一附属機関でしかなく,より独立性を持った厳格な監視の仕組みを作るべきである。
【理 由】
内閣官房は特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適性を確保するための事務を行い,上記事務の公正かつ能率的な遂行を図るため内閣の下に内閣保全監視委員会を置くものとしている。また,内閣府は内閣官房とは別の立場からいずれの行政機関にも偏ることなく,特定秘密の指定及びその解除並びに行政文書ファイル等の管理の適正の確保に関する事務を行うものとしている。
これらは,内閣又は内閣府内部において,特定秘密の指定・解除,適性評価の実施,特定秘密行政文書ファイルの管理の適正を自律的に図ろうとするものとされている。
しかし,内閣官房,内閣府はもちろんのこと,内閣保全監視委員会もあくまで閣議決定で設置される内閣の附属機関に過ぎないことから,このままでは,厳格な監視は期待できない。独立性を持った厳格な監視の仕組みの策定が不可欠である。
2 「2 内閣総理大臣による指揮監督」について
【意 見】
内閣総理大臣による行政機関の長への資料提出又は説明の求め及び是正の求めに強制力を与えて実効性を高めるべきである。
【理 由】
内閣保全監視委員会は,内閣総理大臣が特定秘密保護法第18条第4項に基づいて,特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施の適正を確保するために,行政各部を指揮監督するに当たり,行政機関の長に特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,必要があれば是正を求めることができるとしている。
しかし,行政機関の長が資料の提出や説明,さらには是正の求めに応じない場合,運用基準案には,それに備えた適正確保のための方策が規定されていない。適正確保のためには,内閣総理大臣の要求に強制力を付与すべきである。
3 「3 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の検証・監察・是正」について
(1) 「(1) 内閣府独立公文書管理監による検証・監察・是正」について
【意 見】
内閣府独立公文書管理監の選任母体となる情報保全監察室の構成メンバーの選出基準が不明確であるから,その選任基準を明確化するとともに,学者,弁護士その他外部の有識者を情報保全監察室に入れる他,行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して,独立性を可能な限り確保すべきである。
【理 由】
特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理が特定秘密保護法及び施行令の規定並びに運用基準に従っているか検証,監察するために内閣府の下に政令によって内閣府独立公文書管理監を置くものとしている。そして,内閣府には情報保全監察室を設置し,その室員の中から内閣府独立公文書管理監を指定するとしている。
そして,内閣府独立公文書管理監は,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行い,検証又は監察の結果,必要があれば特定秘密の指定の解除や特定行政文書ファイル等の適正な管理その他の是正を求めることができるとしている。
内閣府独立公文書管理監も特定秘密保護法第18条を受けて,いわゆる第三者的機関として設置されるものである。内閣保全監視委員会とは異なり,内閣府令に設置根拠が作られ,内閣府の下の機関となることによって,独立性を確保しようとしたものとされる。
しかし,その選任母体となる情報保全監察室の構成メンバーの選任基準が明確ではなく,防衛省,外務省,警察庁等の審議官レベルの人員で構成するともいわれている。特定秘密を取扱う行政機関の幹部を充てるということであれば,内閣保全監視委員会と同様に独立性のない機関とならざるを得ない。構成メンバーについては,その選任基準を明確にする必要がある。また,学者,弁護士その他外部の有識者を情報保全監察室に入れる他,行政機関から選ばれるメンバーについてもノーリターンルールを導入して,組織上の独立性を可能な限り確保すべきである。
(2) 「(2) 行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等」について
【意 見】
内閣府独立公文書監理監は,行政機関の長による特定秘密指定管理簿の写しの提出等を求めることができるとしているが,監視機関として十分に機能するためには全ての特定秘密である情報を含む資料に対してのアクセス権を認め,是正に関する要求について強制力を与えるべきである。
【理 由】
先のとおり,内閣府独立公文書管理監は,行政機関の長に対し特定秘密である情報を含む資料の提出又は説明を求め,さらには実地調査を行うことができる。しかし,各行政機関の長はこれら求めを応じるべき義務はない。行政機関が資料の提出又は説明を拒む場合には,我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないことを疎明しなければならないとしているが,要求する疎明の程度次第では何らの歯止めにもならないし,さらには疎明なくして拒否した場合のペナルティーもない。知る権利と安全保障に関する国際基準を定めたツワネ原則は,要求される監視のための第三者機関には全ての情報に対するアクセス権を認めるべきとしている。内閣府独立公文書管理監に第三者機関としての機能を担わせるのであれば,行政機関の長に資料の提出又は説明の求めに対する拒否権を認めるべきではない。
また,検証又は監察の結果,必要があれば特定秘密の指定の解除や特定行政文書ファイル等の適正な管理その他の是正を求めることができるとしても,是正に応じなかった場合,運用基準案には,それに備えた適正確保のための方策が規定されていない。適正確保のためには,要求について強制力を付与することが不可欠である。
4 「4 特定秘密の指定及びその解除並びに特定行政文書ファイル等の管理の適正に関する通報」について
【意 見】
通報先として内閣府独立公文書監理監又は行政機関の長の任意選択制とするとともに,国会(情報監視審査会)への通報も認めるべきである。
【理 由】
特定秘密取扱業務者は,特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイルなどの管理が特定秘密保護法等に従っておこわなれていないと思料する場合に,内閣府独立公文書管理監又は行政機関の長にその旨の通報を行い,調査を行った結果必要となれば是正を求めることができるとし,通報者については不利益取扱いをしないよう保護するとしている。
内部通報をきっかけとして特定秘密の指定及びその解除又は特定秘密行政文書ファイルの管理の適正化を図ろうとした点は評価できる。
しかし,まず,通報窓口については,内閣府独立公文書管理監と行政機関の長としているが,一次的には行政機関の長に通報することを求めており,内閣府独立公文書管理監への直接通報は例外とされている。自らが所属する行政機関の長に対しての内部通報は心情的に躊躇してしまいかねず,また,適正を欠くと思われる特定秘密の指定及びその解除又は特定行政文書ファイル等の管理を行っている当該行政機関の長に通報しても,通報後に適切に処理されるか疑わしい部分もある。そのため,通報窓口として内閣府独立公文書管理監を用意した以上は,通報者の任意選択でいずれにも通報が可能とすべきである。
次に,先の国会法改正により情報監視審査会が衆参両議院に設置されることとなったことから,通報先として上記審査会も加えるべきである。さらに,通報対象となる特定秘密の指定及び解除又は特定行政文書ファイル等の管理の違法性については,特定秘密保護法に限定することなく,憲法,条約,ツワネ原則をはじめとした国際準則等に適合するかにより判断すべきである。
5 「5 特定秘密保護法第18条第2項に規定する者及び国会への報告」について
【意 見】
国会への報告及び公表事項は,件数だけでなく,概要も併せた報告をすべきである。
【理 由】
行政機関の長は,毎年1回特定秘密の指定及びその解除又は適性評価に関する所定の事項を,内閣保全監視委員会,内閣府独立公文書管理監に報告するものとしている。また,国会に対しては内閣総理大臣が同様の報告をするものとしている。
定期的な報告を求めることで,各機関による適正確保のための職権発動を促そうとした趣旨と考えられるが,基本的に報告事項は件数報告であり,その内容については概要すら明らかにされるものではない。このような報告では,監視の実効性をあげることは困難である。報告は,単なる件数報告でなく概要も併せて行うべきである。
6 「6 その他の遵守すべき事項」について
【意 見】
監視機関の独立性が欠如していること及び監視方法として何ら強制力を伴わず実効性が欠如していることから,これらを確保すべきであるし,公益者通報制度も併せて整備すべきである。
【理 由】
(1) Vの運用基準は,特定秘密保護法第18条の規定を受けて,いわゆる第三者機関的なチェック機構をもうけることにより,過度の特定秘密の指定などが行われないように配慮しようとしたものと思われるが,極めて不十分なものとしか言い様がない。
(2) 独立性の欠如
内閣保全監視委員会も内閣府独立公文書管理監も,内閣又は内閣府から独立性をもった第三者機関ではない。構成メンバーの選任方法から外部有識者を積極的に導入するなどの必要がある。
(3) 実効性の欠如
内閣保全監視委員会も内閣府独立公文書管理監も,特定秘密の指定及びその解除等が適性に行われているか,調査する権限を有するが,各行政機関の長に報告などを求めても強制力をもって行うことができるわけではない。さらに,調査の結果,たとえは秘密指定すべきでない情報が秘密指定されているなど特定秘密の指定などが適切に行われていないことが明らかになったとしても,是正を勧告することができるに過ぎない。米国の同様の機関は,このような場合には秘密指定解除請求権を有していることなどと比べて著しく監督権限が弱い。
(4) 通報制度の不十分さ
通報制度については,内閣府独立公文書管理監又は行政機関の長だけでなく,国会への通報も可能にすべきである。また,通報にあたっては匿名でも可能にして,通報を容易にすべきである。
以上