勧告書・警告書2011.06.15
広島刑務所に対する昼夜間独居処遇に関する勧告書(2/2)
4 判断
(2) 昼夜間独居処遇の問題点
ところで、昼夜間独居処遇においては、所内の行事にも参加させられず、他の受刑者との接触をほぼ遮断した取り扱いがなされている。また、受刑生活では大きな楽しみであり、社会との接点でもあるテレビやビデオの視聴も許されておらず、その運用実態は、法律上の隔離とほとんど径庭がない。
そして、その期間は、昼夜間独居処遇が法律上の制度として規定されていないため、専ら運用に委ねられており、申立人の例では、半年以上の長期に及んでいる。これは、法76条の定める正式の隔離の原則上限期間(3ヶ月)の倍以上であり、隔離の法的手続をとらない実質的な隔離の措置が、脱法的に行われていると言わざるを得ない。しかも、昼夜間独居処遇においては期間の法的限定はないから、このような処遇に歯止めはかかりにくく、申立人の例のように、漫然と長期化する危険性もある。
さらに、この事実上の処遇は、法157条で新たに設けられた不服申立制度である「審査の申請」の対象外と解される(同条は、申請の対象となる特定の措置を、根拠条文とともに列挙している)。
以上のことから、昼夜間独居処遇は、過去の厳正独居拘禁等の人権侵害の実態に鑑み、その反省に立って、隔離を厳格に制限しようとした新法の規定を形骸化するものであり、看過できない重要な問題である。
なお、徳島地裁昭和61年7月28日判決・判時1224-110は、「(監獄法15条、同法施行規則27条1項等を)統一的に解釈すると、昼夜間独居拘禁が本来社会的存在である人間としての生活のあり方とかけ離れた不自然な生活を強いるものであり、その継続はそのこと自体過酷であって受刑者の心身に有害な影響をもたらすだけでなく、行刑の目的の一つである社会生活への適応そのものを阻害するおそれがあること、他方、昼夜間雑居は受刑者のプライバシーの保護や精神生活の充実の見地から問題が多いことから、昼間雑居・夜間独居を望ましい形態として理念したものと解される。」と判示している。また、同事件の控訴審である高松高裁昭和63年9月29日判決・判時1295-71も、「当裁判所も、拘禁形態としては、昼間雑居・夜間独居が望ましいものであり、昼夜間独居拘禁は必要最小限にすべきものであると考える」としている。
(3) 昼夜間独居処遇のあり方
たしかに、申立人の例のように、閉居罰明けに受刑者を工場に配役するに際しては、暴力団関係やそれまでのトラブル等の人間関係に配慮したり、本人の能力・適性等に適合した工場を選択する等、種々の要素を考慮した上での調整が必要であり、そのために一定の期間を要する場合があることは理解できる。
しかしながら、上述した、法が隔離の要件、期間等を厳格に規定した趣旨からすれば、昼夜間独居処遇は、必要最小限にすべきである。
また、やむを得ず昼夜間独居処遇とする間も、テレビ・ビデオの視聴や所内の行事への参加は、合理的理由のない限り制限すべきでない。この点については、法39条2項も、「刑事施設の長は、・・・被収容者に対し、・・・知的、教育的及び娯楽的活動、運動競技その他の余暇時間帯等における活動について、援助を与えるものとする。」と規定している。
(4) 人権侵害についての判断
ア 上述のとおり、申立人は、平成19年4月14日から同年12月6日まで約8ヶ月(閉居罰とされた30日間を除くと約7ヶ月)にわたり、昼夜間独居処遇とされ、その間、工場に配役されない、所内の行事に出られない等集団処遇から除外され、また、テレビ・ビデオを視聴できない等、教養・娯楽の機会を大きく制限された。
申立人が昼夜間独居処遇とされた期間は、正式の隔離の原則上限期間(3ヶ月)の倍以上であって、かかる処遇が必要最小限のものであったとは、考えられない。申立人が「暴力団の回状が廻っている」と申し出たことから、一定期間、申立人を事実上隔離することはやむを得なかったかもしれないが、本件のように昼夜間独居処遇が長期に及ぶ合理的な理由はない。
なお、「他の被収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」(法76条1項2号)に法律上の隔離が認められるが、約8ヶ月(閉居罰とされた30日間を除くと約7ヶ月)もの間、昼夜間独居処遇とする以外に、申立人が「他の被収容者から危害を加えられる」ことを避ける方法がなかったとも、考えられない。したがって、本件昼夜間独居処遇は、法律上の隔離の要件も満たさない。
そして、本件昼夜間独居処遇の間、所内の行事への参加やテレビ・ビデオの視聴が制限されたことについて、合理的な理由を見出し得ない。
イ このような申立人に対する処遇は、まず、憲法13条で保障された個人の人格と尊厳を侵害するものである。法的な根拠規定もなく、理不尽に長期間の実質的隔離状態を強制し、他者と集団からの遮断により身体的・精神的自由を制限するものだからである。
また、上記の処遇は、法定の告知・聴聞等の適正な手続もなく自由を制限する実質的隔離状態に置くものとして、行刑手続についても適用ないし準用されると解される憲法31条の趣旨にも反する。
さらに、このような事実上の隔離処遇は、国際人権(自由権)規約委員会からは、「明確な基準ないし不服申立ての機会もないまま一定の受刑者を『収容区画』に隔離する実務を廃止するべきである」と、その廃止を求められている(2008年[平成20年]10月29日に採択された「規約第40条に基づき締約国から提出された報告書の審査」の日本についての「総括所見」パラグラフ21、日本弁護士連合会仮訳による)。
加えて、申立人に対する上記処遇は、従来の隔離及び独居拘禁の悪弊を除去し、やむを得ない措置としての隔離を必要最小限度に制限しようとする、法76条及び154条4、5項を事実上脱法するものとして、同条項に違反し、又はその趣旨に反する。
ウ 以上のとおり、貴所の申立人に対する上記昼夜間独居処遇は、申立人の人権を侵害するものである。
(5) 勧告の救済措置の必要性
よって、今後、貴所の受刑者らが、申立人と同様の処遇を受け、人権が侵害されぬよう、当会は貴所に対し、勧告の趣旨記載のとおり勧告する。
以上
4 判断
(2) 昼夜間独居処遇の問題点
ところで、昼夜間独居処遇においては、所内の行事にも参加させられず、他の受刑者との接触をほぼ遮断した取り扱いがなされている。また、受刑生活では大きな楽しみであり、社会との接点でもあるテレビやビデオの視聴も許されておらず、その運用実態は、法律上の隔離とほとんど径庭がない。
そして、その期間は、昼夜間独居処遇が法律上の制度として規定されていないため、専ら運用に委ねられており、申立人の例では、半年以上の長期に及んでいる。これは、法76条の定める正式の隔離の原則上限期間(3ヶ月)の倍以上であり、隔離の法的手続をとらない実質的な隔離の措置が、脱法的に行われていると言わざるを得ない。しかも、昼夜間独居処遇においては期間の法的限定はないから、このような処遇に歯止めはかかりにくく、申立人の例のように、漫然と長期化する危険性もある。
さらに、この事実上の処遇は、法157条で新たに設けられた不服申立制度である「審査の申請」の対象外と解される(同条は、申請の対象となる特定の措置を、根拠条文とともに列挙している)。
以上のことから、昼夜間独居処遇は、過去の厳正独居拘禁等の人権侵害の実態に鑑み、その反省に立って、隔離を厳格に制限しようとした新法の規定を形骸化するものであり、看過できない重要な問題である。
なお、徳島地裁昭和61年7月28日判決・判時1224-110は、「(監獄法15条、同法施行規則27条1項等を)統一的に解釈すると、昼夜間独居拘禁が本来社会的存在である人間としての生活のあり方とかけ離れた不自然な生活を強いるものであり、その継続はそのこと自体過酷であって受刑者の心身に有害な影響をもたらすだけでなく、行刑の目的の一つである社会生活への適応そのものを阻害するおそれがあること、他方、昼夜間雑居は受刑者のプライバシーの保護や精神生活の充実の見地から問題が多いことから、昼間雑居・夜間独居を望ましい形態として理念したものと解される。」と判示している。また、同事件の控訴審である高松高裁昭和63年9月29日判決・判時1295-71も、「当裁判所も、拘禁形態としては、昼間雑居・夜間独居が望ましいものであり、昼夜間独居拘禁は必要最小限にすべきものであると考える」としている。
(3) 昼夜間独居処遇のあり方
たしかに、申立人の例のように、閉居罰明けに受刑者を工場に配役するに際しては、暴力団関係やそれまでのトラブル等の人間関係に配慮したり、本人の能力・適性等に適合した工場を選択する等、種々の要素を考慮した上での調整が必要であり、そのために一定の期間を要する場合があることは理解できる。
しかしながら、上述した、法が隔離の要件、期間等を厳格に規定した趣旨からすれば、昼夜間独居処遇は、必要最小限にすべきである。
また、やむを得ず昼夜間独居処遇とする間も、テレビ・ビデオの視聴や所内の行事への参加は、合理的理由のない限り制限すべきでない。この点については、法39条2項も、「刑事施設の長は、・・・被収容者に対し、・・・知的、教育的及び娯楽的活動、運動競技その他の余暇時間帯等における活動について、援助を与えるものとする。」と規定している。
(4) 人権侵害についての判断
ア 上述のとおり、申立人は、平成19年4月14日から同年12月6日まで約8ヶ月(閉居罰とされた30日間を除くと約7ヶ月)にわたり、昼夜間独居処遇とされ、その間、工場に配役されない、所内の行事に出られない等集団処遇から除外され、また、テレビ・ビデオを視聴できない等、教養・娯楽の機会を大きく制限された。
申立人が昼夜間独居処遇とされた期間は、正式の隔離の原則上限期間(3ヶ月)の倍以上であって、かかる処遇が必要最小限のものであったとは、考えられない。申立人が「暴力団の回状が廻っている」と申し出たことから、一定期間、申立人を事実上隔離することはやむを得なかったかもしれないが、本件のように昼夜間独居処遇が長期に及ぶ合理的な理由はない。
なお、「他の被収容者から危害を加えられるおそれがあり、これを避けるために他に方法がないとき」(法76条1項2号)に法律上の隔離が認められるが、約8ヶ月(閉居罰とされた30日間を除くと約7ヶ月)もの間、昼夜間独居処遇とする以外に、申立人が「他の被収容者から危害を加えられる」ことを避ける方法がなかったとも、考えられない。したがって、本件昼夜間独居処遇は、法律上の隔離の要件も満たさない。
そして、本件昼夜間独居処遇の間、所内の行事への参加やテレビ・ビデオの視聴が制限されたことについて、合理的な理由を見出し得ない。
イ このような申立人に対する処遇は、まず、憲法13条で保障された個人の人格と尊厳を侵害するものである。法的な根拠規定もなく、理不尽に長期間の実質的隔離状態を強制し、他者と集団からの遮断により身体的・精神的自由を制限するものだからである。
また、上記の処遇は、法定の告知・聴聞等の適正な手続もなく自由を制限する実質的隔離状態に置くものとして、行刑手続についても適用ないし準用されると解される憲法31条の趣旨にも反する。
さらに、このような事実上の隔離処遇は、国際人権(自由権)規約委員会からは、「明確な基準ないし不服申立ての機会もないまま一定の受刑者を『収容区画』に隔離する実務を廃止するべきである」と、その廃止を求められている(2008年[平成20年]10月29日に採択された「規約第40条に基づき締約国から提出された報告書の審査」の日本についての「総括所見」パラグラフ21、日本弁護士連合会仮訳による)。
加えて、申立人に対する上記処遇は、従来の隔離及び独居拘禁の悪弊を除去し、やむを得ない措置としての隔離を必要最小限度に制限しようとする、法76条及び154条4、5項を事実上脱法するものとして、同条項に違反し、又はその趣旨に反する。
ウ 以上のとおり、貴所の申立人に対する上記昼夜間独居処遇は、申立人の人権を侵害するものである。
(5) 勧告の救済措置の必要性
よって、今後、貴所の受刑者らが、申立人と同様の処遇を受け、人権が侵害されぬよう、当会は貴所に対し、勧告の趣旨記載のとおり勧告する。
以上