勧告書・警告書2017.03.28
県立高等学校への勧告書
広島弁護士会
会長 爲末和政
勧 告 書(要旨)
当会は、広島県立A高等学校(以下「A高校」という。)及びB校長(以下「校長」という。)を相手方とする人権救済申立事件について、当会の子どもの権利委員会において、申立人、A高校教員及び広島県教育委員会からの事情聴取の結果を踏まえて協議した結果に基づき、A高校に対し、以下のとおり勧告する。
勧告の趣旨
1 今後は、広島県教育委員会の平成27年作成の生徒指導資料「学校生活適応プログラムに基づく特別な指導について」の指針(以下「特別指導指針」という。)を遵守し、「学校反省の指導期間中」であっても「実際に授業を受けていた生徒」について「授業」を「欠課扱い」としないよう勧告する。
2 学校の教務規程及び生徒指導マニュアルを改正して、「学校反省の指導期間中」であっても「実際に授業を受けていた生徒」については「授業」を「出席扱い」とする規定に改めるよう勧告する。
勧告の理由
1 認められる事実について
(1)申立人は、A高校に入学した当初から、A高校の生徒手帳に定められた校則違反及び生徒指導マニュアルの規定違反の行為が度々あった。そのため、教員らは違反がある毎に、申立人に対して、指導をしていたが、申立人の校則違反及び生徒指導マニュアルの規定違反の行為は是正されなかった。
(2)校長は申立人に対し、特別な指導である「学校反省(別室反省)」を受けるように告知したが、申立人は、「学校反省(別室反省)」を受けることを拒否した。なおA高校における「教務規程及び生徒指導マニュアル」では別室反省期間中の生徒について、登校の扱いについては『出席扱い』、授業の扱いについては『欠課扱い』としている。
(3)校長及び生徒指導担当の教員らは、申立人は「学校反省(別室反省)」を受けているわけではないが、学校生徒指導規程に規定のある「学校反省(別室反省)」を受けている場合と同様に扱うこととした。すなわち、本件においても、申立人は学校には登校したこととするが、「授業」については、実際には全ての科目を受講していたものの、全ての科目において「欠課扱い」にするという対応を取ることにした。
(4)約半年後、申立人は学校に対して「学校反省(別室反省)」の指導を受けたい旨の申入れをした。そこで、校長は、申立人に対して「学校反省(別室反省)」を実施して、申立人は「学校反省(別室反省)の指導」を受けた。その結果、学校は、本来は「学校反省(別室反省)期間中」であるとして「欠課扱い」としていた授業に関し、全て「出席扱い」に変更した。
2 人権侵害の有無について
(1)広島県の公立高校においては、一般的に「特別な指導」の一つとして「学校反省指導」という指導方法が認められており、「学校反省指導」の一方法として「別室反省指導」という方法が認められているが、この「特別な指導」の「基本的な考え方」については、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針において、「教育の場であることを重視し、教育的配慮のもと、生徒の望ましい成長に繋がるよう指導する」、「学校教育法第11条、学校教育法施行規則第26条の懲戒停学と明確に区別して行う」、「特別な指導を実施することそのもので、原級留置になったり、中途退学になったりしないよう、生徒の進級や卒業につながるための反省指導とする」とされており、この指針は「生徒の教育を受ける権利」を保障する趣旨と考えられる。
(2)「学校反省指導」の場合の「授業の出欠の扱い」については、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針において、「別室反省指導」の場合も「学校、各教科ともに原則、出席扱い」とするとされており、「欠席扱い(欠課扱い)」とすることが認められるのは、極めて限定的な場合と解される。
(3)本件は、申立人自身が「別室」において指導を受けていたため「教室での授業を受けていなかった事案」ではなく、通常どおり「教室での授業を受けていた事案」であり、「授業」について「欠席扱い(欠課扱い)」としている期間は、極めて長期にわたるものであり、仮に例外的に「別室反省の指導(指示)」の場合に「授業」を「欠席扱い(欠課扱い)」とすることが認められた場合、指導の名において、(懲戒処分の一つである)「停学」の処分と実質的に同様の効果を生じさせることになりかねず、それは、「学校教育法第11条、学校教育法施行規則第26条の懲戒停学と明確に区別して行う」という指針に明らかに反するものである。
なお、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針においても、「保護者の理解を得て学校において欠席扱いとして別室において反省させる指導も行われている」が「生徒・保護者にとってこれらの措置が強制と受け取られ、事実上の停学となっている場合がある」、「停学は、…生徒にとって期間中教育を受けられなくなる懲戒処分である」とされており、「授業」を「欠席扱い」とする「別室指導」自体が「強制」となれば「事実上の停学」となることが示唆されている。
以上に加え、本件において広島県教育委員会の指針に記載されている原則を覆して例外的に「授業」を「欠席扱い(欠課扱い)」にすべきとまでいえる事情を窺うことはできず、たとえ申立人が「別室反省の指導(指示)」に従わなかったとしても、実際に申立人が受けた「授業」は原則に従い「出席扱い」とすべきであったことは明白である。
(4)教育を受ける権利の侵害について
教育を受ける権利には、学校に登校する権利だけではなく、授業を受ける権利も含まれ、さらに適切な評価がなされ適切な進級認定を受ける権利も含まれると解される。
本件では「実際に(教室内で通常どおり)授業を受けている生徒」について「学校反省(別室指導)の期間中である」との理由で「授業」を「欠課扱い」としており、(指針に違反し裁量の範囲を超えているだけでなく)長期間にわたり申立人の教育を受ける権利を侵害する行為があったといわざるを得ない。
以上
広島弁護士会
会長 爲末和政
勧 告 書(要旨)
当会は、広島県立A高等学校(以下「A高校」という。)及びB校長(以下「校長」という。)を相手方とする人権救済申立事件について、当会の子どもの権利委員会において、申立人、A高校教員及び広島県教育委員会からの事情聴取の結果を踏まえて協議した結果に基づき、A高校に対し、以下のとおり勧告する。
勧告の趣旨
1 今後は、広島県教育委員会の平成27年作成の生徒指導資料「学校生活適応プログラムに基づく特別な指導について」の指針(以下「特別指導指針」という。)を遵守し、「学校反省の指導期間中」であっても「実際に授業を受けていた生徒」について「授業」を「欠課扱い」としないよう勧告する。
2 学校の教務規程及び生徒指導マニュアルを改正して、「学校反省の指導期間中」であっても「実際に授業を受けていた生徒」については「授業」を「出席扱い」とする規定に改めるよう勧告する。
勧告の理由
1 認められる事実について
(1)申立人は、A高校に入学した当初から、A高校の生徒手帳に定められた校則違反及び生徒指導マニュアルの規定違反の行為が度々あった。そのため、教員らは違反がある毎に、申立人に対して、指導をしていたが、申立人の校則違反及び生徒指導マニュアルの規定違反の行為は是正されなかった。
(2)校長は申立人に対し、特別な指導である「学校反省(別室反省)」を受けるように告知したが、申立人は、「学校反省(別室反省)」を受けることを拒否した。なおA高校における「教務規程及び生徒指導マニュアル」では別室反省期間中の生徒について、登校の扱いについては『出席扱い』、授業の扱いについては『欠課扱い』としている。
(3)校長及び生徒指導担当の教員らは、申立人は「学校反省(別室反省)」を受けているわけではないが、学校生徒指導規程に規定のある「学校反省(別室反省)」を受けている場合と同様に扱うこととした。すなわち、本件においても、申立人は学校には登校したこととするが、「授業」については、実際には全ての科目を受講していたものの、全ての科目において「欠課扱い」にするという対応を取ることにした。
(4)約半年後、申立人は学校に対して「学校反省(別室反省)」の指導を受けたい旨の申入れをした。そこで、校長は、申立人に対して「学校反省(別室反省)」を実施して、申立人は「学校反省(別室反省)の指導」を受けた。その結果、学校は、本来は「学校反省(別室反省)期間中」であるとして「欠課扱い」としていた授業に関し、全て「出席扱い」に変更した。
2 人権侵害の有無について
(1)広島県の公立高校においては、一般的に「特別な指導」の一つとして「学校反省指導」という指導方法が認められており、「学校反省指導」の一方法として「別室反省指導」という方法が認められているが、この「特別な指導」の「基本的な考え方」については、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針において、「教育の場であることを重視し、教育的配慮のもと、生徒の望ましい成長に繋がるよう指導する」、「学校教育法第11条、学校教育法施行規則第26条の懲戒停学と明確に区別して行う」、「特別な指導を実施することそのもので、原級留置になったり、中途退学になったりしないよう、生徒の進級や卒業につながるための反省指導とする」とされており、この指針は「生徒の教育を受ける権利」を保障する趣旨と考えられる。
(2)「学校反省指導」の場合の「授業の出欠の扱い」については、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針において、「別室反省指導」の場合も「学校、各教科ともに原則、出席扱い」とするとされており、「欠席扱い(欠課扱い)」とすることが認められるのは、極めて限定的な場合と解される。
(3)本件は、申立人自身が「別室」において指導を受けていたため「教室での授業を受けていなかった事案」ではなく、通常どおり「教室での授業を受けていた事案」であり、「授業」について「欠席扱い(欠課扱い)」としている期間は、極めて長期にわたるものであり、仮に例外的に「別室反省の指導(指示)」の場合に「授業」を「欠席扱い(欠課扱い)」とすることが認められた場合、指導の名において、(懲戒処分の一つである)「停学」の処分と実質的に同様の効果を生じさせることになりかねず、それは、「学校教育法第11条、学校教育法施行規則第26条の懲戒停学と明確に区別して行う」という指針に明らかに反するものである。
なお、広島県教育委員会の生徒指導資料の指針においても、「保護者の理解を得て学校において欠席扱いとして別室において反省させる指導も行われている」が「生徒・保護者にとってこれらの措置が強制と受け取られ、事実上の停学となっている場合がある」、「停学は、…生徒にとって期間中教育を受けられなくなる懲戒処分である」とされており、「授業」を「欠席扱い」とする「別室指導」自体が「強制」となれば「事実上の停学」となることが示唆されている。
以上に加え、本件において広島県教育委員会の指針に記載されている原則を覆して例外的に「授業」を「欠席扱い(欠課扱い)」にすべきとまでいえる事情を窺うことはできず、たとえ申立人が「別室反省の指導(指示)」に従わなかったとしても、実際に申立人が受けた「授業」は原則に従い「出席扱い」とすべきであったことは明白である。
(4)教育を受ける権利の侵害について
教育を受ける権利には、学校に登校する権利だけではなく、授業を受ける権利も含まれ、さらに適切な評価がなされ適切な進級認定を受ける権利も含まれると解される。
本件では「実際に(教室内で通常どおり)授業を受けている生徒」について「学校反省(別室指導)の期間中である」との理由で「授業」を「欠課扱い」としており、(指針に違反し裁量の範囲を超えているだけでなく)長期間にわたり申立人の教育を受ける権利を侵害する行為があったといわざるを得ない。
以上